研究課題/領域番号 |
18K00172
|
研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
木下 京子 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (60774560)
|
研究分担者 |
五十嵐 公一 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (50769982)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 杉戸 / 引手金具 / 移築 / 喜多院客殿 / 日光東照宮拝殿 / 西教寺客殿 / 南部利康霊屋 |
研究実績の概要 |
2021年度は、① 6月16日に喜多院客殿調査(川越市) ② 6月17日に日光東照宮拝殿調査 ③ 10月15日に西教寺客殿調査(大津市) ④ 10月16日に南部利康霊屋(青森県南部町)⑤10月17日に南部利直霊屋調査 ⑥ 2月16日~18日に喜多院客殿再調査および撮影を行った。調査の実施理由は以下の通りである。 ①⑥ 喜多院寺伝によると、寛永15年(1638)1月の川越大火で現存の山門を除き堂宇はすべて焼失した。将軍家光が堀田加賀守正盛に復興を命じ、江戸城紅葉山の別殿を移築して客殿と書院に当てたとされる。杉戸や襖などの建具は移築後に新調されたにしても、徳川家に深く関係する寺院調査は重要なため実施した。6月の調査で、江戸中期に大改築が行われたことが判明した。また、上段の間の襖は別所で保管されているため、2月に再訪した際に襖を入れた状態で撮影を行った。②「東照宮御造営帳」に、日光東照宮の絵画装飾は狩野探幽の指揮下で狩野派の絵師たちが手掛けたことが記録されている。したがって、照宮拝殿の杉戸調査は二条城と名古屋城上洛殿の杉戸絵と引手金具を比較する上で重要である。③ 西教寺には桃山御殿と別称される客殿がある。もとは伏見城の旧殿で、1598年に大谷刑部吉隆の母・山中長俊守内室が寄進したとの謂れがある。二列に配置された室の障壁画は狩野派の絵師によるものである。西教寺客殿調査は、徳川以前の、数少ない現存する建造物の杉戸絵や引手金具を知ることであり、城郭御殿における杉戸の変遷を検討する上で貴重な機会となった。④⑤は建造物とその目的は他と異なるが、板絵と金具調査より同時代の杉戸と複数の共通点が確認できた。特に装飾金具については、京都の工房で制作されたものが流通していたという仮説を立てた。 2021年度は慶長期から延宝期頃までの杉戸絵と引手金具の意匠、およびその技術の変遷を確認することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度Covid19のため、日本国内であっても調査に出かけることができず、ほぼ何もできなかったが、2021年度は17世紀前半の寺院の客殿と東照宮の拝殿、さらには霊屋を調査することができ、杉戸絵の図像のみならず、引手金具や装飾金具の変遷を追うことができた。2021年度の調査経験を活かし、2022年度に調査を実施すべき寺院に目星をつけ、調査対象と調査内容を絞り込むことができたように思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
喜多院と同様に、2022年度は相応寺や建中寺といった徳川家と密接な関係のある寺院をさらに調査し、また海外に流出した杉戸とも関連付けて研究を進める予定である。杉戸が海外に流出した経緯は未だ判明していないが、明治時代のはじめに日本各地で開催された内国勧業博覧会などにも多数の杉戸が出陳されていることより、今年度は資料調査・研究にも重点を置く。そしてこれまでの調査内容をまとめる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本科研を一年延長したため。残金が余った理由としては、西教寺客殿調査をはじめ、喜多院や日光東照宮拝殿調査に本科研メンバー全員が調査に参加できなかったことと、さらに必要に応じてこれら以外の城郭御殿や寺院に調査を実施する予定だったが、2021年度に遂行することが叶わなかったため、旅費の支出が予定よりも少なくなり、残金が生じた。次年度には、江戸時代前期に建立された徳川家の菩提寺や所縁のある寺院の調査を実施する意向である。
|