本研究課題では、初唐時代の道宣撰述『集神州三宝感通録』巻下の「聖寺録」と「瑞経録」を対象に、『大正新脩大蔵経』原文の訓読・現代語訳と詳細な注釈をおこない、そこから抽出した問題や関連する事象について論考することを目指した。この成果は3冊の報告書―『美術史料として読む『集神州三宝感通録』―釈読と研究(十二)』全197頁、『同(十三)』全124頁、『同(十四)』全125頁―を刊行して公開した。 このうち、天台山石梁寺、五臺山太孚聖寺、蓬莱山聖寺など実在・架空を問わず12箇寺の霊験を集成した「聖寺録」については、羅漢信仰と美術、炳霊寺石窟、響堂山石窟など北斉の相州地域の仏教美術などが主なトピックとなった。 一年延長した研究期間の最終年度となった2022年度は、前年度に読解を進めた「瑞経録」の釈志湛、范陽僧、并東看山、魏閹官、周経上天、隋揚州僧、釈道積、釈宝瓊、釈空蔵、釈遺俗、史呵誓、令狐元軌、釈曇韻、釈僧徹、河東尼、釈曇延、釈道遜、釈智苑、厳恭の各条についての成果をまとめて上記の『美術史料として読む『集神州三宝感通録』(十四)』を作成・刊行するとともに、李山龍、李思一、陳公太夫人、岑文本、蘇長妾、董雄、益州空経、高文、崔義起の各条について釈読をおこない、『同(十五)』の執筆と編集を進めた。 また、道宣がこれら全38話から成る仏経に関する感通譚を撰述した意図を多角的に考察した。南北朝~初唐の間に仏経の受持・読誦・書写・講説などにおいて生じた霊験を集成した「瑞経録」(そもそも瑞経という用語は道宣の著作にほぼ限られている)では、感通の体験者は出家・在家、男女の別を問わないことが特徴である。そこでは清浄性や如法な実践が強調されており、個別具体的な事象の解釈にとどまらず、後世に大きな影響を遺した初唐の律匠が理想視した仏寺のすがたや、写経や造像活動における際の理念を明らかにすることができた。
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