研究課題
ピーテル・ブリューゲル(父)の次男ヤン・ブリューゲル(父)は、動植物や風景の専門画家として高い評価を受けてきた。本研究では、ヤンの「物語画」に着目、等閑視されてきた画家の本領域における活動実態を明らかにし、既存の絵画観において見過ごされてきた文化的文脈を再構成することを目的とする。コロナ渦による海外渡航規制のため研究期間延長を余儀なくされた本研究であるが、本年度をもって当初の計画を上回る成果をあげつつ、完了した。本年度は、従来の物語画概念では捉え難い諸作品について考察を行った。西洋の物語画は、キリスト教説話や古代ギリシア・ローマ神話や英雄伝などの文学、つまり、文字化されたテキストに基づき描かれる。とりわけ15世紀以降に普及した人文主義的芸術観では、高尚な文学を理解して適切に絵画化する知的な画家が高く評価された。実際、ヤン・ブリューゲル(父)は、聖書や古典文学などに基づく従来型の物語画を手掛けている。従来型の物語画においても、ヤンは、同時代や先達の物語画家に大いに学び、優れた成果の残した。一方、ヤンの作品では、風景画にみえるが、同時代の他の風景画に比べると、描かれた人物群が何等かの「出来事」を思わせる行為を行っている作例が多く存在する。なかでも、新奇性、多様性、作品数で目を引くのが「旅する人々」を描く作例であり、街道を行きかう馬車や徒の人々、河川交通、宿場の様子に大別される。実際、ヤンの居住都市アントウェルペンは交易の要衝であり、「旅」は身近でありつつも非日常を体験する一つの「物語」の場として機能していた。こうした観点から、当時の交易網や史跡の調査などを経て、「旅する人々」を物語画に比肩する入念な感情表現と舞台設定で描いたヤンの作品が、いわば、「現代風物語画」として機能していた事を明らかにした。加えて、「旅」における銅板油彩画の役割についても新たな知見を得た。
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Art Stories from the Netherlands and Italy, 1550-1800
巻: 1 ページ: 154-161
https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/aesthetics-art-history/