本研究では、いままで等閑視されてきた、「物語画家」としてのヤン・ブリューゲルの活動実態を明らかにすることで、この17世紀の巨匠についての美術史的理解を一層深めることに貢献した。さらに、同時代や先達の物語画家に大いに学ぶ一方、美しい風景の中を「旅する人々」など従来の「物語画」概念にとらわれない「新しい物語画」を創出したヤン・ブリューゲルの柔軟な制作態度を解明することで、伝統的芸術観が見落としてきた17世紀ヨーロッパの豊かな文化的諸相を明らかにした。異文化理解を、芸術作品とそれをめぐる歴史的資料の分析を通じて深める研究は、現代のグローバル化社会における多文化共生の一助となると考える。
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