1997年、 2007年、 2017年と 3回現象した国際美術展のグランド・ツアーについて、非欧米圏に与えたインパクトの広がりを解明することが本研究の目的である。 この現象は、1993年にヴェネツィア・ビエンナーレが奇数年開催に移行したことに起因し、研究に着手した当初は、2027年に4回目が実現することが見込まれていた。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行によって、2020年に開催予定だったヴェネツィア・ビエンナーレ建築展が1年延期され、美術展も2021年から22年へ玉突きで延期された。これにより、10年毎の周期性は崩れた。2022年にヴェネツィア・ビエンナーレとドクメンタの開催が重なったが、今後、ミュンスター彫刻プロジェクトと合わせて3つの国際美術展の開催が重なる機会は実現しないと予想される。 こうした現状を踏まえて、本研究は1997年から2017年までの3回のみ実現した現象の歴史的位置づけと批評的考察を行うとともに、「ポスト・コロナ時代のアート・ツーリズム」がどのようなものであり得るか、という新たな問いへと接続する現在進行形の研究課題へとシフトさせることが必要になった。 しかしながら、最終年度までに当初の目的や計画に見合う研究成果を上げることができなかった。変動しつつある現状から批評的距離を確保し、適切な冷却期間をとって再挑戦したい。 関連する研究実績として『小倉正史著作選集 アートはどこへ行く?』(水声社、2022年3月)、「I 拡散するアートの場 初出・解題」(pp.265-268)を上げる。小倉正史氏は、雑誌『アトリエ』の編集者として、1990年代初頭より、ヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタを始めとする国際美術展の動向を国内に報じてきた美術批評家である。同書の編集作業を通じ、本研究の対象期間とほぼ重なる国内外のアート動向について再考することができた。
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