本研究では剥製や毛皮を用いる美術家およびその作品についての調査研究を実施した。2018年度には、秋田県を中心に東北地域でのマタギに関する調査を行い、美術家・鴻池朋子氏が用いるクマの毛皮作品とマタギに伝わる毛皮やクマの身体を利用してきた歴史について知見を得た。現在でも集落に伝承されるマタギ猟師に関する知見は猟友会会長のインタビュー、秋田県立博物館の学芸員への取材で多くの情報を得ることができた。同様に、毛皮を用いた美術家・小谷元彦氏へのインタビュー取材を実施し、制作意図や毛皮、剥製に対する美術家の思考についての知見を得た。また、害獣駆除の問題に関して、千葉県君津市の市役所の取り組み、および、花卉農家の笹子氏がイノシシ猟を行うことについて調査を行った。 2019年度には、京都にスタジオを持つ名和晃平氏に取材を実施し、剥製を素材とした作品の制作過程やその着想等につき知見を得た。年度末にはロンドンとドイツ・デュッセルドルフおよびハンブルクにおいて、剥製美術作品に関する調査を実施した。テート美術館アーカイヴでの調査、クンストパラストでの調査を通じて、海外作家作品の多岐にわたる表現について各種情報を得ることができた。またロンドン芸術大学での研究者らとのミーティングでも研究への助言や情報を得ることができた。 2020年度、新型コロナ感染症の拡大により、調査や取材活動が困難となったため、主に文献資料や展覧会情報から剥製美術作品のデータベース作成と文献資料リストの作成を行った。 2021年度から2023年度まで延長されたことにより、2022年度に藤森照信氏に取材を実施、長野県茅野市における鹿や猪の剥製頭部を用いた史料館設計に関する知見を得た。 これらは、所属機関の紀要に論文投稿したほか『ヒトと動物の関係学会』や『動物観研究』等の学会誌へ投稿、口頭発表を行った。
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