本研究は、奈良時代の寺院造営を担う役所であった造寺司の下位組織「官営造仏所」に仏像制作の造形的共通規範が存在したことを明らかにするものである。研究遂行にあたっては、①仏像各箇所法量の写真計測、②造形的共通規範の検討、③工人が制作した下図(したず)を明らかにする、④文献にみえる造仏記事の考察、⑤中国と朝鮮半島の作例検討、⑥発表、というプロセス予定だった。これにしたがい平成三十年度(2018)は①をおこない、2年目は①の画像加工と④の文献整理、3年目は②のための作図及び法量計測のためのソフト「Kuraves-MD」(倉敷紡績)の導入と進めてきた。研究は平成三十年度に3年間の予定で開始したが、海外調査を予定していた令和元年度末(2020)から世界的なコロナの流行により渡航不能になり、海外での資料取得ができなくなった。こうしたなかで令和三年から延長措置をいただき、①③④を充実させることに専念してきた。別研究で滞在したエジプトでの神殿や墓室にみえる下絵画像収集、法隆寺金堂壁画や勧修寺伝来刺繡釈迦説法図といった仏画の数値化分析などの立体ではなく平面図像をも対象にした解析をおこなってきた。令和四年度には新たな糸口を発見したため、角度を違えた基盤研究(C)が採択され、ふたつの研究を同時進行することで判明した新視点もあった。 これまで本研究では、古代寺院造営が複数部署での計画実施による総合プロジェクトであったことを資財帳などの文字や完成品の分析から導き出そうとしてきた。天平彫刻を生み出す工人は、あくまで組織の一員であって独断で造形物を生み出すことはありえない。最終年度である令和五年度は当初の目標をなんとか完遂し、現在は最終的なまとめに入っているところである。
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