研究課題/領域番号 |
18K00196
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
鈴木 桂子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 教授 (10551137)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 美術史 / グローバル・ヒストリー / 服飾史 / 異文化交流 / 経済史 / きもの文化 / 京都 |
研究実績の概要 |
2019年9月にオランダで江戸時代に輸出された「ヤポンスロック」をはじめとした「きもの文化」の受容の調査を遂行。(9/9 ハーグ市立美術館で調査。 9/10 レリスタットにあるアムステルダム国立美術館の所蔵品倉庫で調査。 9/11 アムステルダム国立美術館で所蔵品調査。 9/12 アムステルダムにある国立海運博物館見学。 9/13 ハーグ市にある国立古文書館及び国立美術史館で調査。 9/14 ライデンにあるラーケンハル市立博物館見学。) アフリカン・プリントに関しては、大同マルタ・コレクションのバイリンガル・データベースがほぼ完成し研究が進んでいるので、別のコレクションであるアレワ・テキスタイルズ資料の共同調査に着手した。当該資料は、日本からの資金提供で1960年代にナイジェリアに設立されたアレワ紡績株式会社が生産した生地を含むもので、当時の現地での日本捺染産業の実態の一端を明らかにする貴重な資料である。生地の採寸、撮影、基礎調書の作成などを遂行し、データベース構築及び研究の緒に就いた。 2019年度の研究は全体としては、2018年度の研究の焦点であった「英国及びオランダを拠点とした、アフリカン・プリント関連企業の構造的変化」の理解を深めるため、歴史的に長期持続的観点から取り組んだものとなった。18世紀英国での産業革命における機械捺染の技術的革新とそのグローバルな影響、江戸時代の日蘭貿易におけるヤポンスロック・機械捺染生地の意義も視野に入れ、再考した。英国、そしてヨーロッパにおける機械捺染技術の確立を考慮に入れ、明治以降の染色技術導入を考えると、ただ単に技術をパッケージとして受け入れたというのではなく、日本に当時存在していた技術的・社会的コンテキスト・ニーズに合致したものから暫時、戦略的に導入されたことが解明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
科研の研究計画調書概要にあげた以下の3つの焦点にそって進捗状況を述べる。 (1)20紀前半以降、京都からアジア・アフリカに輸出された捺染生地:京都で戦前から2008年まで操業した機械捺染業者大手である大同マルタのアフリカン・プリントの研究が進み、それに加え前述のアレワ・テキスタイルズ生地資料の研究にも着手でき、順調に研究は進んでいる。また、京都以外の、国内外の捺染業者の現地調査・研究を遂行することができ、多極的な視点からの研究がかなり進捗した。 (2)ハワイでの着物生地のアロハシャツの誕生とそのグローバルな普及:ハワイでのアロハシャツ関係業者の聞き取り調査、およびアーカイブ調査を、2020年3月に重点的に遂行する予定であったが、コロナウィルス感染の影響で実施できていない状況である。しかし、戦前・戦後を通じて日本から輸出したアロハシャツ用生地に関する様々な捺染技術・デザインの歴史的変遷の詳細、またアロハシャツのグローバルな普及に関わった様々なエージェントや各国での受容・需要のあり方等については、研究を進めることができた。デザインに関しては、ヤシの木やサーファーいった「ハワイ柄」も確立・発展していくが、「鷲・虎・龍」に代表される「和柄」も根強い人気を保ち、現在も世界中で需要があることが解明できた。 (3)戦後の外国人用お土産として開発されたスカジャンやハッピーコートの日本での定着と若者文化との関係:これらの刺繍をはじめとした加工技術、きもの文化との関わり、デザインという観点、若者文化との関係から研究を進めたが、若者だけでなく、様々な社会集団の消費者が、それぞれの意味付けをし、着用していることが明らかになった。スカジャンの「鷲・虎・龍」を表現するのに、刺繍だけではなく、染・織の加工技術も駆使した生産者側の工夫も明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究・調査の進捗には、コロナウィルス感染状況が強く影響してくると言わざるを得ない。アロハシャツについては、ハワイのアロハシャツ関係業者の聞き取り調査、およびアーカイブ調査を、2020年3月に重点的に遂行する予定であったが、感染の影響で実施できていない状況である。また、2020年4月にはシンガポールで調査をする予定であったがこれも延期せざるを得ない。アフリカン・プリントの調査に関しては、生地資料とそのデータの収集・研究はかなり進んだが、戦後以降活躍したアフリカン・プリントの捺染業者・関係者が退職してからずいぶんの年月が経っており、聞き取り調査を進めるのが急務であると感じている。しかし、これも感染が収束するのを待たざるを得ない。 同じく2020年度に計画をしていた国際シンポジウムに関しては、2019年9月にオランダ調査の折り、ユトレヒト大学教員と打ち合わせ、2020年9月17日・18日に、同大学で国際ワークショップ『Dutch Textiles in Global History: Interconnections of Trade, Design, and Labour, 1600-2000』を共同開催することを決定した。このワークショップは、17世紀から20世紀のオランダの綿・毛繊維製品と世界との関係を、日本を含めて問い直すもので、オランダ、イギリス、日本の織物史研究者が参加・議論する予定で、すでにアブストラクト募集を開始した。しかし、これもコロナウィルス感染状況如何により、延期することを考えなければならない。 当面は、オンラインでの論文調査と、論文執筆に重点をおいた研究となることが予想される。上述の国際ワークショップの発表原稿の執筆の他、今年度刊行予定の『糸・布・衣の世界史』の、機械捺染についての章の執筆を担当しているので、それに向けての調査・研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年8月にインドネシアでのかなり長期の調査を計画していたが、受け入れ先であるインドネシア国立博物館の事情によりキャンセルとなった。2020年2月にジャカルタ市でバティックの市場調査を遂行したが、これは別予算からの支出で賄えたため、残金が生じた。また、ハワイでの長期の調査を、2020年3月に遂行する予定であったが、コロナウィルス感染の影響で実施できなかったのも、次年度使用額が生じた理由である。 2020年9月に国際シンポジウムが予定通り開催できれば、これに科研費を充てる。また、研究資料として重要であると考えられるアロハシャツやスカジャン等の購入や、撮影・アーカイブ化をした資料の利活用のためのハイスペックなコンピュータの購入に使用することを計画している。
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