研究課題/領域番号 |
18K00201
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館 |
研究代表者 |
大谷 省吾 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 美術課, 主任研究員 (90270420)
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研究分担者 |
西澤 晴美 神奈川県立近代美術館, その他部局等, 研究員 (50639854)
五十殿 利治 筑波大学, 芸術系(特命教授), 特命教授 (60177300)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 戦後日本美術 / 前衛美術 / アヴァンギャルド / モダンアート / 実験工房 / 山口勝弘 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年海外からの注目も高まりつつある戦後日本の前衛芸術運動についての研究基盤の整備に寄与しようとするものである。とりわけ文献資料が少なくその実相が十分に明らかになっていない終戦直後の占領期の状況に光を当てるために、1951年に東京で結成された前衛芸術グループ「実験工房」の中心人物のひとり山口勝弘(1928-2018)の1945-1955年の約10年間にわたる日記を詳しく調査し、記述された内容を他の関係作家の日記・書簡等の資料や公刊資料によって裏づけをとりながら、比較検証していくものである。 これまで日記のスキャニングによるデジタルデータ化、および翻刻を進めつつ、同時代の美術を研究する外部の美術館学芸員を招いて、日記資料を読み、ディスカッションを行う研究会などを開催してきたが、3年目にあたる2020年度は、山口の日記の翻刻作業を進め、主要部分の翻刻をおおよそ完了させ、公刊に向けて表記を整える段階へと進んだ。また各自が前年度の研究を発展させつつ論文執筆を行った。大谷は戦前から戦後にかけて活動を続け、山口の初期とも活動期間の重なる北脇昇と瑛九を中心に研究を進め、自館の研究紀要および海外の学術雑誌において発表した。西澤は戦前戦後にかけて日本画の分野で前衛的な取り組みを行った朝倉摂ら女性画家の歩みに着目して調査研究を行い、自館の展覧会カタログに解説を執筆した。五十殿は村山知義の戦後まもない時期の動向に関して海外の論文集に寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にあたる2018年度は、山口勝弘氏より借用した日記18冊およびノート8冊をスキャンして電子データとして保存するとともに、その内容をパソコンで文字起こししていく作業を進めた。2019年度は、前年度から引き続き日記の文字起こし作業を進めるとともに、各研究分担者がそれぞれ担当する時期の日記を読み込み、新知見の整理を進めた。2020年度は、日記の文字起こし作業がおおよそ一段落し、判読の難しい箇所の検討や、公刊に向けた表記の原則などについて意見交換を行った。 当初の予定では、9月に国内外の研究者を招いて、山口の属していた実験工房、および同時代の前衛グループだった具体美術協会などについて、アーカイヴ的な資料整備とその活用の観点から新しい研究方法を提案していくシンポジウムを開催するはずであったが、新型コロナウイルスの感染防止の観点から次年度に順延することとした。 大谷は前年に発表した論文「日本アヴァンギャルド美術家クラブをめぐって」に関連して、同グループに属していた北脇昇の希少文献の再録・解題を『東京国立近代美術館研究紀要』に執筆し、また瑛九についてフランスの学術雑誌『Revue A』に寄稿した。西澤は『生命のリアリズム 珠玉の日本画』展(神奈川県立近代美術館)の図録において、戦中戦後にかけて日本画の分野で前衛的な活動を展開した女性画家たちについて論じた。五十殿は1945年に朝鮮に渡り、同年中に帰国した村山知義の敗戦後前後の活動について英文原稿をまとめ、本年9月刊行予定の論文集Interpreting Modernism in Korean Artに寄稿した。
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今後の研究の推進方策 |
山口勝弘日記に記された手書きの文章は、翻刻の作業がほぼ出来上がったため、表記方法を整えて、著作権者の確認を経て、少部数刊行する。また、前年度から延期したシンポジウムを、秋を目安にあらためて開催する。新型コロナウイルスの感染状況を考慮しながら計画し、可能であれば対面式で、状況が思わしくない場合はオンラインで開催することとする。さらに、日記を核とした企画展示を神奈川県立近代美術館 鎌倉別館で2022年2月12日~4月17日に開催し、それにあわせて小冊子を刊行する。以上の研究成果に基づき、年度末に報告書を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度当初の予定では9月に海外からの招聘も含めたシンポジウムを計画していたが、新型コロナウイルスの感染防止の観点から招聘が叶わなくなり、外国旅費を使うことができなかった。シンポジウムを今年の秋にあらためて開催し、招聘に充てたい。感染状況によりシンポジウムをオンラインで開かざるをえなくなった場合は、旅費相当分を研究成果報告書の刊行の一部に充てたい。
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