一枚の鉄板からあらゆる形状を作り出す、世界に類を見ない鉄打ち出し技法は、明治期に山田宗美が創出した。この技法を用いた作品群は、国内外で高く評価され、現在も注目を集める。しかし、作品は残されたが、技法は現代に継承されず断絶されてしまった。今までの研究から、鉄の熱間加工での温度の上限(900℃)がわかったことと木炭を使用した還元雰囲気が有効であることがわかり、その二つの条件が整う都市ガス炉を開発した。それに特製の当金や金鎚、木槌、火箸を多数製作し、設備と工具を整えた。展延性が優れ、酸化しない純銀を用いて瓢型花瓶の再現実験をおこない、一部破損箇所を出したが、寸法通りの形状に打ち出すことが出来た。この実験から、当金、金鎚、木槌の改良が出来て、実際に鉄(SPC材)を使用して再現実験を実施した。都市ガス炉で木炭を使用した還元雰囲気で熱した鉄は、加工性がよく予想以上に実験が進んだ。加工性は良いのだが、オリジナルの形状に合わせなければならず、作業を中断しては細かく採寸をおこなった。熱間加工と冷間加工、そして制作物の中に溶かしたヤニを入れて、固まった後に金鎚で叩いて細かな制作をおこなった。瓢のくびれ部や口元など極めて細い箇所も鉄が割れることなく、叩き出すことが出来て完成することが出来た。3Dスキャナーと3Dプリンターを使用した樹種性の復元品と比較して高さ、最大直径、最小直径など合致した。さまざまな金属工芸作家が再現を試みてきたが、いまだに 完成に至っていない山田宗美の鉄打出し技法を材料学、最新の機器を活用して一つ一つ課題を解決してきたことによって、現代に再現することが可能となった。
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