2023年度の研究成果として、書籍『「自分づくり」がひらく未来:子どもの願いを支える教育課程の創造』(クリエイツかもがわ)を5月に刊行したことが挙げられる。表現活動が子どもたちの内面の育ちにどのような影響を与えたか、発達保障の視点から考察するとともに、特別支援教育における重要性を、鳥取大学附属特別支援学校の教員たちと検討した。 さらに出版記念シンポジウムを7月14日に開催し、講師の三木裕和氏(立命館大学産業社会学部教授、元鳥取大学地域学部教授)、國本真吾氏(鳥取短期大学教授、全国専攻科(特別ニーズ教育)研究会会長)らと「発達」「生涯教育」などに関する議論を深めることができた。障害者の芸術表現をopera(ラテン語で「仕事」、生きる喜びの表現という意味)とするには、本人が継続して表現活動に取り組む基盤整備が必要であることも明らかとなった。つまり、学童期から多様な表現にふれることのできる教育課程の整備のみならず、学校卒業後も自身の望む余暇活動などに取り組める環境整備、すなわち生涯学習を継続して行える環境を保障することが不可欠である。 年間を通して、多様な表現活動に取り組んでいる福祉施設等を訪問し、コロナ禍が与えた影響と今後の見通しなどについて情報収集を行った。 9月に参加した障害学会第20回大会では、障害の「社会モデル」という概念が提起されてから40年が経過した現在、学術的な観点からはその限界や難点が指摘され、「人権モデル」が検討されるようになっているとの知見を得た。近年、注目されるようになったwell-being(よく生きるあり方・よい状態)という概念とも関連づけながら、障害者の生涯学習に関して考察を深めることが、今後の研究課題として考えられる。
|