本研究で扱った、能楽、声明、題目立は、いずれも少人数の担い手や共同体によって伝承されているもので、伝承においては、ひととおり技術が「できる」ことがまず重要だ。しかしそのためには、芸能のつくりが「わかる」ことも、また、それを「伝える」ことも、とくに現代では、必要になってきた。 芸能を残すことだけが目的であれば、現代、録音や録画も簡単にできるので、心配もない。しかし、それらは音や動きを外部から見るものであるにすぎず、それだけでは楽しむことが難しい。楽しく「できる」ためには、「わかる」ことが不可欠である。「わかる」を促すのが記譜である。たとえるなら、料理のレシピである。その社会的意義は小さくはない。
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