本年度はすでに得られた創作実践データのまとめに集中する予定であったが、図らずも幾つかの貴重な創作実践機会を得ることとなり、これまでのデータの読み込みとともに実践を増やすこととなった。 造形分野対象においても、日本画となると制作前には「緊張」「不安」が上回っていた。これは、間違えの修正ができない、繊細で大変そう、敷居が高い、などのイメージのためであったが、制作後の感想ては、やっぱり難しいなどもあったものの、重ねる美しさ、深み、混ざり方が独特、思ったより扱いやすかった、手間がかかる分愛着がわいた、などの回答が増加していた。導入としての感性画や、日本画画材そのもの威力が大きく制作中の解放感などの心理につながっていた。文系分野対象については、自由に腕を動かしてよい、否定しないのもよい、絵にできてよかった、など効果を示唆する、興味深い回答を得た。夏~秋にかけて、一般の方々を対象にしてのワークショップを開催した中で、臨床美術的感性画や、日本画画材を用いた描画を実践する機会を得た。参加者の様子の観察や時々に交わした言葉から、上記の2グループのみならず、絵を描くことに抵抗のある方々にとっても感性画は入りやすく、また日本画の画材は興味を引くものであると確認できた。 さらに、分担研究者による、美術とストレス解消に関する質問紙の調査も行い分析を進めている。 コロナ禍のため、海外での実施は見送ることになったが、国内において充実した実践を重ねることができた。実践機会の増加により、自由記述データも膨大になったため、「構造化」については鋭意継続中である。今後作業を続けて論文発表を目指す。しかしながら、造形や美術を勉強している方々であれ、殊に造形の勉強を志しているは限らない一般の方々であれ、素材と対話しながら感性を解放させる美術にとって日本画画材を用いることの有用性が示唆された結果となった。
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