最終年度の研究実績はドイツ・カッセル市のドクメンタ・アーカイヴでの現地調査およびアートマネジメント学会九州支部での研究報告の2点である。 現地調査は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて、たびたびその実施をとりやめてきたが、2022年春からの世界的な入国制限緩和の流れをうけて今回ようやく実現できた。現地では、ドクメンタ運営法人の文書館「ドクメンタ・アーカイヴ」を訪問し、本施設が所蔵する1955年の事業創設時以降の委員会資料および実務資料を対象に本展の運営体制成立過程が判明する記録を参照しえた。本資料には1955年の初回ドクメンタから第3回ドクメンタまでの組織改善の検討状況を伝える記述があり、とくに創設者であるアーノルト・ボーデの活動が影響していたことを確認した。 研究報告では、日本アートマネジメント学会九州支部の研究会にてこれまでの研究成果も踏まえ本調査の成果報告を行った。報告では、調査成果をもとにドクメンタ創設初期のアーノルド・ボーデにおけるドクメンタでの担当業務の広範さが本展における芸術監督制の素地となる点を指摘した。本研究課題では、ドクメンタが他の国際展と比較して際立った発信力を有する要因をその芸術監督制にあると仮定した。ドクメンタでは、芸術監督に広範な権限を付与し、芸術監督の独創性を起点として展覧会を組織する。その独自の芸術監督制を採用する背景について、本研究では事業創設初期におけるアーノルド・ボーデの活動の影響があることを提示した。
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