2022年度は、過去5年間(本課題は3年計画であったが、コロナ禍のため2年延長した)の集大成として、論文集『グローバル・アニメ論 身体/アーカイブ/トランスナショナル』(青弓社)を、研究分担者キム・ジュニアンとともに編纂し刊行した。この論集は、2018年の韓国と2019年にシンガポールにて行った声の現地化調査と、2021年3月3月6日(土)、7日(日)にオンラインにて開催した国際シンポジウム「アニメ研究を切り開く 声とアーカイブ」での成果に基づく。同書は、以下の2つの論点についての議論を蓄積することができた。 1.音声の現地化:日本のアニメが輸出されるとき、音声はどのように翻案・変更されるのか。音声の現地化は、その都度その都度の歴史的・政治的・経済的・技術的文脈に応じて変化し、それらの文脈に適応していく。台湾、フィリピン、シンガポール、スペインの事例を取り上げる論考を収録することで、日本国内の視聴者および研究者は把握しにくい、日本国外における声の現地化の一側面を明らかにすることができた。 2.視覚との緊張関係にある声のクィアネス:アニメにおける声は、視覚とつねに関連する。ときにアニメの視覚的側面と緊張関係をもち、視覚的側面を乗り越えながら、アニメのナラティブをけん引していく。また、声が視覚と取り持つ関係は、クィアな表現・読解を成立させる。それは音声の現地化とも深く結びついており、現地化の際にキャラクターの性別が変更されている事例も多く存在することが判明した。
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