メディアアート作品の保存修復は、歴史が浅いため、絵画や彫刻といった既存芸術が蓄積してきたような方法が不足している。特に、電子技術を駆使したメディアアート作品は、使用されている技術(ハードウェア、ソフトウェア)やその周辺の情報環境(外部サービス、API等)に依存している側面があり、保存・保守が困難であるという問題を抱えている。そうした制約の中で、作品をいかに持続させるかという議論は、昨今活発になってきているが、本研究では、電子技術や機械を構成要素とする以上、耐用年数や寿命からは逃れられないという前提に立ち、それをいかに延命させ、どのように終わらせるか、といういわば「期限付きの保存」について提案し、方法論として構築するものである。 研究方法として、(1)技術的方策(2)社会的制度の2つの側面から検証した。(1)技術的方策では、民具や機械類といった動的機構を有する文化財保存の方法論を参照しながら、①静態保存/②動態保存の両面から実験及び検証を行った(2020年度-2023年度)。(2)社会的制度では、海外の公共博物館を視察し、機械の保存状況や取り組み、課題点等について確認した(2018年度)。2023年度には、選考事例調査において抽出した各種課題に取り組む実験施設(富山県砺波市の旧民芸館施設)を設立し、(1)技術的方策における試行を含む各種実験を開始した。また同年に、国内民間博物館施設における、保存に対する考え方について調査し、保存を第一の目的としない博物館運営の実態に迫った(補助事業:令和5年度大学における文化芸術推進事業(文化庁))。 以上の検証を通して、当初想定していたメディアアート作品の保存修復論における「期限付き保存」の考え方について、一般的な博物館の取り組みと比較し、独自の立ち位置を確認できた。
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