研究課題/領域番号 |
18K00235
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
藤野 一夫 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (20219033)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 文化政策 / 地域創生 / 芸術文化基本計画 / 新型コロナウイルス / 芸術文化への支援 / 活動自粛 / 感染症対策 |
研究実績の概要 |
研究課題である「文化政策による地域創生の戦略的研究」に関して、調査拠点である豊岡市の文化施策のリサーチを継続するとともに、大阪府の基礎自治体である八尾市の文化資源の調査と文化政策の策定の支援を行った。具体的には2020年4月から(仮称)「八尾市芸術文化基本条例」および「八尾市芸術文化基本計画」の策定を支援している。 また新型コロナウイルス感染症の拡大防止に伴う活動自粛の要請等によって、兵庫県在住または県内を活動拠点としている芸術文化に関わる個人(実演家、創作者、技術者、制作者など)や団体、事業所が受けた影響について、コロナ禍での芸術文化関係者の実態とニーズを把握し、今後の行政や民間による芸術文化への支援の必要性から、2020年8月「新型コロナウイルス影響下における兵庫県の芸術家等の活動状況に関するアンケート調査」を実施した。 本アンケートでは600件を超える個人や団体からのご回答をいただいた。集計速報の冊子は82ページに及び、資料編の自由記述も46ページとなった。これらのアンケート結果から見えてきたものは、芸術家と文化活動を取り巻く環境の脆弱さ、芸術文化環境の貧困であった。これは兵庫県だけの問題ではない。文化庁をはじめ、日本の文化政策の全体がもともと不十分であったこと。つまり従来からの文化振興や文化支援の仕組みが抱えていた問題点が、一気に浮き彫りとなった。 さらに、幅広くヒアリング調査に出向き、専門家からの助言をもとに全国各地との比較を踏まえた分析を行うことができた。とくに関西圏での比較に留意しながら、その実態を把握するとともに、今後の持続可能な支援策と環境整備を考えるデータベースを集積することができた。また、複数のシンポジウムやワークショップを開催し、数多くの新聞報道等を含め、芸術文化関係者からの反響を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
急激な少子高齢化に直面している地方都市や地域において、文化政策やアートマネジメントの観点から、どのような計画や施策が実施されているかについて、各地に固有の文化資源を調査し、活用の観点から研究し、それを公的な計画の策定や政策提言に活かすことが出来ている。 また、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に伴う活動自粛の要請等によって、兵庫県在住または県内を活動拠点としている芸術文化に関わる個人(実演家、創作者、技術者、制作者など)や団体、事業所が受けた影響について、コロナ禍での芸術文化関係者の実態とニーズを把握し、今後の行政や民間による芸術文化への支援の必要性から、緊急アンケート調査を実施し、その後のヒアリング調査も含め、その実態と分析結果を広く公開することができた。 ただし、新型コロナの感染拡大によって、本年度もドイツでの調査が実施できなかったことは残念である。日独の比較研究の面では2021年度に傾注したいが、渡航が不可能なケースも想定した研究計画を考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の調査の実態を踏まえ、また日独の比較研究が難しくなった場合も想定し、今後は以下のような取り組みを予定している。 (1)危機管理に関する調査研究を多層的に行う。自律した市民社会の形成にとって大切なことは、市民一人一人が地域社会の構成員として、感染者という(一時的な)他者を受け容れる寛容性である。リスクから逃げるのではなく、リスクを最小化して引き受け、地域社会の未来を照らすことが文化政策の使命である。芸術文化は不要不急という世間の同調圧力に屈することは、人間の尊厳を奪う行為に加担することを意味する。真のリスクマネジメントには以下の制度化が必要である。 ①自治体の文化芸術推進基本計画等において、災害時の対応や感染症対策を前提とした条項を付帯することで、文化施設等の個々のガイドライン、文化関係者への損失保障や支援策などの策定根拠を明確化すること。 ②感染症対策のガイドラインや支援施策についても、文化施設、芸術家・芸術団体、市民文化活動など、個々のレベルや分野に即して、その効果を最大化できるように設計すること。藤野研究室では、既に多数の自治体において当該の問題に取り組んできたが、今後の研究では、より長期的視点からの安定的な制度化を追求する。 (2) 復興戦略(レジリエンス)の成否は、芸術文化の本質(創造性)と文化政策の責務(自律性と公共性)との有機的連関にある。自律的で持続的な地域社会の条件は、社会的活動や文化的創造行為のなかで共感や連帯感を育み、文化的再生産と社会的統合と人格形成を三位一体で実現する仕掛けづくりである。この責務は、パンデミックからのレジリエンスにおいて一層重要なものとなってきたが、文化的復興戦略の精度を上げるには詳細な経験的調査が不可欠である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題は地域創生にかかる日独の文化政策の比較研究であり、使用額の大半は渡航による現地調査として計上されている。しかし2020年度においてもドイツ渡航が不可能であったことから、大幅な次年度使用額が生じた。2021年度は主にドイツでの調査渡航を行うため、そのための経費に充当するが、もし渡航がさらに不可能な場合、国内での調査およびシンポジウムとして使用する予定である。
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