研究課題/領域番号 |
18K00238
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
野角 孝一 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 講師 (50611084)
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研究分担者 |
松島 朝秀 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (60533594)
荒井 経 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (60361739)
高林 弘実 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (70443900)
吉岡 一洋 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (20553150)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 絵金 / 芝居絵屏風 / 想定復元制作 |
研究実績の概要 |
絵金(絵師金蔵、弘瀬洞意)は、幕末の狩野派で学んだ土佐の絵師である。祭礼を飾るという独自の様式を確立した絵金作の『芝居絵屏風』が開帳される高知県各地の夏祭りは、全国的にもユニークな祭りとして注目されている。しかし『芝居絵屏風』は高知県内の温度や湿度などが管理されていない寺社や各地区などで保管されている。そのため損傷の激しいものが多々あり、祭礼そのものの存続も危ぶまれている。本研究では現存する屏風を基に当時の彩色技法を使った屏風絵として想定復元制作を行う。 想定復元制作する研究対象である芝居絵屏風は高知県香南市香我美町西川地区にある峯八王子宮が所蔵していたもので、画面の約7割が欠損している。有識者に鑑定を依頼した結果、「伽羅先代萩 御殿」であることが確認できた。高知県で現存する「伽羅先代萩 御殿」を参考に欠損部分の人物のかたちや動き、着衣の文様などの精査を行い、想定復元制作の基となる大下図はほぼ完成した。研究対象である「伽羅先代萩 御殿」は屏風自体が農業用のビニールシートで覆われており、屏風下部に絵具の付着した支持体の一部が堆積している。そのためこれまでの調査ではなされなかった初めての破壊調査による色材分析を行った。また従来通りの非破壊調査と併せて、想定復元制作に使用する色材の検討を行った。 さらに芝居絵屏風の調査の一環で高知県内の神社や美術館、博物館施設等の調査を行った。とりわけ祭礼では芝居絵屏風を展示する担い手は高齢者が多く、芝居絵屏風が展示される数メートルもある絵馬台の組み立てには危険が伴っている。芝居絵屏風の損傷はもとより担い手不足によって祭礼そのものの継続に関わる深刻な危機にある。そのため調査の一環で学生と共に祭礼の準備に入り、祭礼の担手不足を一時的に補完する目的で調査活動を行うことは、大学と地域が一緒にどのように課題を解決していくのかという観点から非常に重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年に高知県香南市香我美町西川地区にある峯八王子宮の芝居絵屏風1点の調査を行った。芝居絵屏風は画面の約7割が欠損しており動物や虫によって支持体の一部が剥落している状態であった。併せて平成4年に神社の建物を改修する際に撮影された作品写真を入手し、想定復元制作の下準備として、使用する竹紙について墨の塗布実験を行った。模本となる芝居絵屏風では滲みを伴う表現がなされていない。試料となる竹紙に墨を用いた塗布実験を行い、ドーサ引きを施すことで墨が滲みにくく、想定復元制作に適した支持体を準備することができた。また、模本となる「伽羅先代萩 御殿」の模写を繰り返し行い、制作の準備を進めた。 芝居絵屏風の調査としては、様々な祭礼等の目視調査を行い、高知県歴史民俗資料館では非破壊による科学調査を行い、本研究の想定復元制作に留まらず色材分析の情報蓄積の目的もあって調査を進めた。 芝居絵屏風の調査の一環で高知県高知市鴨部の郡頭神社の祭礼に参加した。単なる作品調査に留まらず、祭礼の準備等に学生と共に参加した。研究対象である芝居絵屏風は絵馬台に展示されるが、その絵馬台は担い手の頭の中にだけにある設計図を基に組み立てられるという特徴があり、今後は図面として残していくことについての検討も必要であることがわかった。 以上の成果発表として、第40回文化財保存修復学会高知大会において、「地域文化における絵画の役割―土佐・芝居絵屏風の祭礼空間における機能と表象に関する研究―」と題し、芝居絵屏風が展示されるようになった江戸時代の高知県の社会情勢や地理的特徴と芝居絵屏風との関連性について検証したポスター発表を行った。 高知大学出前公開講座in香南市ではこれまでの進捗状況の解説を行った。芝居絵屏風の概要や、どのような材料で作られているかを紹介し、筆者らの近年の調査でわかった芝居絵屏風の分析結果などを解説した。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象である芝居絵屏風「伽羅先代萩 御殿」の想定復元制作を本格的に進める。これまでの目視による調査を踏まえ、想定復元制作の具体的な進め方を検討した。描かれている人物の顔や手などは墨による綿密な下描きがなされており、それらに沿って上から線が描かれているものや、少しずらして描かれているものがある。特に顔の線描きは下描きに沿って描かれていることが見て取れる。また着衣については同様に下描きが描かれているが、墨や木炭で筆勢のあるものが多く、ほとんどの線が下描きに沿って描かれておらず、良い線が吟味されて描かれていることがわかる。本研究では顔や手については、ある程度綿密に大下図を転写するが、着衣などは木炭で当たりの線を描く程度に留め、臨模によって筆勢を重視しながら運筆することとする。想定復元制作は2019年度中の完成を目指し、屏風に仕立てた後、高知県内の展示施設を活用して成果を発表したいと考えている。 高知県内に現存する研究対象以外の芝居絵屏風の目視ならびに科学調査を行う。研究対象である芝居絵屏風と表現が酷似した屏風もあり、細かな着衣の文様などのかたちや表現方法について継続して調査を行い、その結果を想定復元制作に還元させたい。特に着物の文様については平成4年に撮影された写真では輪郭程度しか確認することができず、他の芝居絵屏風を参考にする方法を取るため、綿密な調査は必須である。 また、引き続き高知県内の芝居絵屏風が展示される祭礼に引き続く関わっていく予定である。祭礼を担う次の世代の育成は各地区等の課題であるが、大学が地域に積極的に入り、文化継承の一助となることは重要であるといえよう。 以上の研究成果については学会発表や論文等で公表する一方で。高知県内での成果発表も併せて行っていきたい。芝居絵屏風と夏の祭礼について現状についてもう一度問題提起し、今後祭礼を継続していくための課題の共有を図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の打ち合わせ等についてできるだけ、学会等の参加に併せて行い、旅費を抑えた。次年度については頻繁に打ち合わせを行う可能性があるため、出張の回数を抑えた。特に今年度は想定復元制作の彩色を進めるため、色材の調達に繰り越した補助金を使用する予定である。
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