研究課題/領域番号 |
18K00240
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
田鍬 智志 京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 准教授 (40351449)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 楽拍子 / 只拍子 / 音源化 |
研究実績の概要 |
2019年度より、箏譜『仁智要録』・琵琶『三五要録』レコーディングに着手した。調子(チューニング用の楽曲)、催馬楽、唐楽、高麗楽、秘曲(伎楽曲など)のなかでまず収録曲譜の大半を占める唐楽曲から着手した。 唐楽曲の録音において、もっとも困難な問題は、「只拍子」に対して「楽拍子」という、平安末期当時におけるリズム変奏法の解釈である。仁智・三五の唐楽譜の各曲譜には、まず「只拍子」譜があって、次に「同曲」として「楽拍子」譜を載せている場合がおおい。「ただの拍子」という意味の只拍子、すなわち大陸から輸入された音楽拍子を引き継ぐ従来の拍子に対して、「楽拍子」は舞の楽のための拍子として平安後期以降、日本で生み出されたとおもわれるリズム変奏である。本研究において、再現・音源化にあたりどのようなリズムであったのか指針を示す必要があった。以下は楽拍子譜の譜字配列の一モデルである(□は譜字を示す)。 □ □・□火□・□ □・□火□・□ 引 私自身、以前は、上の例の場合、2拍・1拍・2拍・1拍・2拍というように2拍と1拍が交替するリズムと解釈していたが、部分的に仁智と三五とで2拍となる箇所、1拍となる箇所に相違があり、この解釈であれば合奏した場合に、お互いの拍数が合わなくなってしまう。仁智と三五はともに藤原師長の撰であるから、著しく箏と琵琶とで拍節構造がことなっていたとは考えにくい。先行研究の説や私の以前の解釈のように、譜字と譜字(□と□)の間に「火」があれば前後の譜字の音価が1/2ではなく、「・と・の間」の音価は一定であり、そのなかで後の譜字が前の譜字に接近している場合は「火」、相対的に接近していない場合は「火」を書かない、と解すれば(つまり後続の譜字の音価は問われていない)、仁智、三五それぞれ調整の必要なく同期演奏が可能である。この新たな解釈にもとづいて楽拍子譜の録音に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
仁智要録・三五要録収載の曲数は約200曲であるが、複楽章をもつ曲があり、複数の帖・段からなる曲もあり、また上記のように、同曲譜として楽拍子譜、他流の譜を併記されている場合があり、それらを別々のトラックとすると、全部で708トラックにもなる(この総数は今後多少変動する可能性がある)。現在、レコーディングを終えているのは、うち244トラック(6月15日現在)で、全体の1/3にとどまっている。楽拍子の拍子構造について、指針を見出すのに時間を要し、レコ―ディング開始が遅れたことと、新型コロナウィルス感染拡大によって大学施設への立入が制限されたことなどが影響し、ややレコーディング作業が遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果物としては、冊子とCD集からなる「音の事典」といった体裁を予定している。冊子には、楽拍子の解釈をはじめとする唐楽曲のリズム解釈、呂の催馬楽のリズム解釈、奏法譜字の演奏解釈など、再現演奏にあたっての指針、そして事典形式の仁智・三五収録全楽曲解説、索引などを収める予定である。事典を作成するには、まず全音源の規模(総録音時間、何枚のCDに振り分けるか)を把握しトラック番号を確定させ、冊子の事典項目と対応させる必要がある。よってレコーディング作業を極力早期に完了させなければならない。レコ―ディング作業を2020年内、おそくとも2020年度内には終えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
別記したように、レコーディング開始時期が遅れたことが主な理由である。 2020年度はレコーディング作業が主となり、ミックスダウン、マスタリングの委託、催馬楽曲(55曲)の歌唱依頼、またそれらにかかる録音音響機材購入などでの支出が見込まれる。
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