研究実績の概要 |
写真のデジタル化は、画像入力装置としてのカメラと、画像を写真として完成させるためのソフトウェア-コンピューターの二つにまたがっているが、その連続部分については個人のレベルではなかなか意識されていなかった。本研究では、写真を物理的に厚みのあるメディアとして捉え、厚みの中に含まれる情報をシンプルな方法で獲得し、ある程度そのニュアンスを最終的な画像に組みこむことに一定の成果を見ることができたと考えている。 本研究では最終的に、ネガフィルム上の17mm×24mmの画像を、幅1,000mm程度、面積比では3,000倍以上に拡大し展示プリントを作成した。本研究によって開発した手法による画像データからのプリントは通常のスキャン方法で作成した画像に比べ、より自然なニュアンスを持ったものとなった。 これは、立体空間を平面画像に変換することや、人間の視覚とは異なる光学的な正確さ、瞬間を捉える速さのみに写真の特性があるだけではなく、3次元空間を別の空間に圧縮する作用にも、“写真らしさ“の要素があるのではないかとも考えることができよう。言うなれば写真は平面画像であるだけではなく、2次元+α的な要素を持ったメディア、2.01次元とも言えるような情報をといえるのではないか。絵画にとってその表面のテクスチャーが単なる凹凸ではなく、絵画そのものを構成する重要な要素となっているように、写真においてもやはり画像の厚みを意識することは表現の重要なポイントになりうると考えられる。本研究の成果発表においても、この知見をもとにした着想を制作にフィードバックし、インスタレーションの構成要素を新たなものにすることができた。 本研究の成果により、“写真らしさ”を具体的に捉え、写真メディアに表現という観点で関わる際の新たな着眼点を提供することができるものと考えられるだろう。
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