研究課題/領域番号 |
18K00250
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福島 真人 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10202285)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | インフラストラクチャ / 科学社会学 / 審美性 / デューイ美学 / 公衆 |
研究実績の概要 |
本年度は、従来のインフラ研究における批判的視座として、機能主義と審美主義の関係について組織的にレビューを行い、以下の二つの点を明らかにした。 ① エンジニア側の視点としては、この二つの関係は、意識されている場合もあれば、全く意識されずに設計される場合もある. 近年では、特にランドスケープアーバニズムに代表されるインフラの新設計思想において、旧来の設計に審美性が欠けていたことが批判され、審美性を加味してインフラを設計することが重視されつつある. そのためにインフラ建設の際に、アーティストの協力をえるといった事例が国際的にもいくつか紹介されており、短期調査を行なったシドニー市の都市インフラ美化計画もそのラインの延長上にある.. ② しかしこうした視点は、審美性の問題をあくまでエンジニア側の意図と同一視しており、いかにインフラを都市景観の一部として設計するかという点に焦点が当てられる一方、そもそもそうした設計者の意図に対して、公衆がどう反応するかという視点は乏しい. こうした欠点はSTSの研究でも同じであり、 公衆がどのようにインフラに反応するかという視点は(一部の例外をのぞいて)乏しい. ③ こうした美的関心を分析する枠組として、デューイ美学の理論的可能性についても省察を深めた.その基本的発想は「審美的知覚は作品そのものでなく、それをみる観客の視点にある」というものだが、インフラ美学に必要な観点も、従来の設計者中心主義ではなく、むしろ公衆側の視点を如何に分析の中に含めるか、という点になる.もちろんその経験のダイナミズムはインフラの物理的、空間的、時間的特質と相互に関係する. 特にインフラの建設、安定化、老朽化と更新といったサイクルに応じて、公衆の審美的反応も変化するというのは重要な視点である..これらの知見をまとめて国際学術誌に投稿中である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
進捗状況については、特に理論的な分析の進展については順調に推移しており、またその成果がすでに有力な国際誌への投稿という形でまとまり、レヴュアーの反応も総じて肯定的で、受理まであと一歩の段階まできているという点からもそうみなしてよいと思われる.
|
今後の研究の推進方策 |
今後特に重点をおく予定の計画は、審美的な対象となるインフラの多様性と、そのそれぞれが歴史的、空間的に持つ特性と、公衆の審美的経験をどのようにクロスさせるかである. 実際現在日本で語られるインフラ・ツーリズムという方向性は、郊外の巨大インフラ建造物を観光の対象としようとするものであるが、都市の中に日常的に存在する公共インフラについて、同じような施策をとっているという議論はあまりきかない. それとは別に、日常的に目にみえないタイプのインフラ(たとえば水道管)に対して、それを可視化することでその働きを世間に知らしめるといった試みは海外で盛んであり、たとえはロンドン市博物館におけるこうした地下水道の展覧会は大きな反響を呼んだという. こうした多様な戦略(その多くは相互に相矛盾している面もあるが)の全体的な理論的、経験的見取り図をつくることが次の段階の目的である.
|