研究課題/領域番号 |
18K00250
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福島 真人 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (10202285)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | インフラストラクチャ / 科学社会学 / 審美性 / 美学 / 都市計画 / 景観 / アート / パリンプセスト |
研究実績の概要 |
本年度は、インフラがもたらす審美的効果について、それをより広範囲の文化的文脈という観点におきつつ、調査した。その際に注目したのは、現状でのいわゆる景観(landscape)論の国際的な広まりの中で、こうしたインフラ的景観がどのように理解、分析されてきたか、そしてそれが歴史的にどのように表象されてきたか、という点である。現状のlandscape論の文脈においては、こうしたインフラ的景観は産業的景観の一部とされることが多く、一種の過去の存在とされる一方で、インフラを含めた景観を新規にデザインするといった新たな方向性が、建築学、都市計画等で盛んになっているという現状が明らかになった。 他方、歴史を遡ると、特に本邦ではこうしたインフラを巡る景観的関心はテクノスケープという名称でいくつか先駆的な研究があるが、他方こうしたインフラ的景観がアート等に与えた影響についての本邦での研究はそれほど活発ではなく、たとえばその代表例である、1920年代のアメリカPrecisionistという一群の画家、写真家等については、西洋主要国の他のアーティストにくらべても本邦では殆ど本格的な研究がないことが分った。こうした機械文明到来とそれに対する表現上の反応という観点は、インフラ美学のダイナミズムを理解するのに基本的に重要であり、現状ではその分野に今だ探求されていない多くの点が残っていることが明確になってきた。 これら新規の観点を総合する形で、景観におけるという観点から論考をまとめ、英文論考にまとめて国際誌に発表した。これはインフラ的景観の身近な代表例である、電柱/電線にまつわる国内での近年の論争を中心に、それが政治、経済、防災、そしてアートの諸側面にどのように関係しているかを、近年注目されているパリンプセスト(もとの意味は古文書に新たな文章を上書きすることを示す)という概念で論じたものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本的には景観論への展開と、インフラに関係した様々なアート上の潮流との接続といった新たな展開が多くあり、その点では予定よりだいぶ収穫があった。またNoise in the Landscape: Disputing the Visibility of Mundane Technological Objectsという英語論文をJournal of Material Culture という有力国際誌に掲載できたことも大きな成果であると言える。 他方コロナによる取材等の制限は否定しようもなく、聞き取り等の活動は大幅に制限され、結果多少の積み残しが残ってしまった。成果としては(1)だが、調査としては(3)的な側面もあり、総合判断として(2)とした。
|
今後の研究の推進方策 |
本最終年度は、前年度に積み残した問題、つまりインフラ美学が特に国内外の表現形態(特に視覚芸術)にどのような影響を与え、またそれが逆に社会のインフラ需要とどうかかわってきたかを、前年度以前に注目したタイプのインフラ(特に電線、電柱といったもの)以外のケースを中心に掘り下げる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で調査/研究打ち合わせ等の異動が難しく、文献での調査に切り替えたため。次年度もコロナによる制約が見込まれるため、引き続き文献中心の調査を行う予定である。
|