研究課題/領域番号 |
18K00251
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡本 拓司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30262421)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 綜合科学 / 篠原雄 / 純粋科学 / 基礎研究 |
研究実績の概要 |
2019年度は予定していた海外調査が実施できなかったため、すでに入手済の資料を用いた研究と、国内の資料の収集・調査を行った。 ノーベル賞に関しては、戦後から平成期全般に至るまでの日本の研究者の受賞が、日本における科学観の展開に与えた影響を概観し、1949年以降の20世紀中の散発的な受賞と、21世紀に入ってからの受賞者の急増が与えた影響を比較した。20世紀中は、米英仏独に比較すれば日本は未だ科学研究に先進的位置にはいないとの自己認識が主流であり、その証拠としてノーベル賞受賞者の数が提示されることも多かった。対するに、少なくとも21世紀に入ってから現在までのノーベル賞受賞者を見れば、日本が科学研究の先進的位置の少なくとも一角を占めると考えざるを得ないが、そのような認識が広く語られることは少ないように見受けられる。その理由に関してはさらに検討が必要であるが、ノーベル賞の内実、たとえば成果の発表後相当程度の時間を経て受賞されることなどについての理解が普及していること、科学研究の実状に関しては論文数などの指標からむしろ日本の地位の低下が意識されていることなどが影響していると考えられる。また、日本が経済面・技術面など、日本が占める国際的な位置の低下全般が影響していることも想定される。 科学観・科学論の変遷に関しては、小規模ではあったが特異な活動を行った綜合科学協会とその周辺の人々の科学論の分析を行い、綜合科学協会の一部の論者たちが宮本武之輔などの革新官僚たちの動きに合流しながら、やがて分離せざるを得なかった事情の検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度末に予定していた海外での調査が実施できず、そのために遅れが生じている。また、2019年度末に国内の図書館・文書館の利用が制限されたために、国内での資料収集などにも支障が生じた。 また、戦前期の科学観を検討する上で重要な組織、綜合科学協会についての調査が進展し、広く影響を与えたわけではないが特徴的な活動を展開した集団として、より詳細な検討が必要であることが明らかになった。このため、研究の方針に若干の修正を加える必要が生じている。綜合科学協会は、これまで歴史研究の対象となったことはなく、基本的な資料の収集や基礎的事実の発掘から行う必要があるが、その特異な主張と活動に鑑みて、戦前期の科学論を検討する際には無視できない存在であり、この課題の発見によって研究の方向性に修正が加えられるのも自然であろうと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ノーベル賞に関しては、海外での調査によって、ノーベル賞の推薦・被推薦に関する基礎的な情報を収集するとともに、主要な推薦者(特に長岡半太郎)が国外でどのように認識されていたかを明らかにするための資料を調査することを目指す。 日本における科学観・科学論の展開に関しては、知られていない事実も多々あることが、現在までの調査で明らかになった。このため、当面は、綜合科学協会の活動、いわゆる「日本科学」論の展開、戦時期を中心とする革新官僚とその周辺の人々の科学観の動向、戦時下での科学者の科学観などの課題に沿って、資料収集とその分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた資料のデジタル化と海外出張が実現できず、これらを次年度に行うこととしたため。
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