研究課題/領域番号 |
18K00251
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡本 拓司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30262421)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 綜合科学 / マルクス主義 / 聖断 / 日本科学 |
研究実績の概要 |
昨年度末から本年度にかけては、予定していた海外での資料調査が実施できなかったため、収集済の資料や、日本において入手可能な資料を用いて実施可能な研究、特に研究成果の取りまとめや発表を行うことに力点を置いた。 具体的には、ノーベル賞への検討からいったん離れて、明治維新から第二次世界大戦における敗戦までの日本における科学観の変遷を辿り、さらに日本からいったん離れてノーベル賞の推薦や選考の実態を分析するために、1946年のブリッジマンのノーベル物理学賞受賞の事例を取り上げた。 また、科学そのものではなく科学観が具体的な社会情勢に影響を与える事例として、原子爆弾といわゆる「聖断」との関わりについて分析した。 以上の検討は、対象を狭義の科学者のみにとどめることなく、広く科学に関心や利害関係を有する人々の思想や行動にも注目しつつ実施した。このことにより、社会全般が科学に対して寄せる期待や関心は、研究に従事する科学者のものとは、場合によっては想像以上に異なることが明らかにされた。科学者の科学観の検討が進められることは重要であるが、それが、個別の科学者の専門領域の特性に依存する例が多々ある点に注意する必要があること、また、狭義の科学者ではない人々がしばしば科学を包括的に論ずる自由を獲得していること、さらに、一定の科学観が社会的な事象に影響を及ぼす際には、そうしたより広い観点から論じられる科学の姿が前提とされている場合が多々あることなども明確にできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外調査が行えないためにノーベル賞の選考資料をさらに収集することできなかったが、収集済の資料についても未検討のものがあったため、それらをより詳細に検討することができた。2021年度も海外調査は困難であることが予想されるため、入手済の資料のより詳細な検討を行うよう、方針を転換することを検討している。 また、今年度は、ノーベル賞をいったん離れて日本における科学観の変遷を辿ったため、従来の研究計画には充分に含みこまれていなかった、狭義の科学者ではない人々の科学観をも加えた包括的な検討を発表することができた。今後も、収集済の資料の利用、および国内の資料の追加的な調査によって検討を深めることが可能な対象について、従来の成果にさらに考察を積み重ねていくかたちで研究を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
海外の資料の追加的な調査は予定せず、収集済のノーベル賞選考資料に基づいて、20世紀前半の日本の科学者が同賞にどのように対応したかを明らかにする。ノーベル賞の推薦状等においても、関連する科学者の科学観が現れる点に注意する。また、ノーベル賞とは直接関わるわけではない論文や随筆において、科学者が吐露する科学観についても調査を行う。その際、戦前期に数多く発表されていた科学雑誌に注意すると同時に、総合雑誌に発表された論説等にも検討を加える。 科学者の抱く科学観とは別に、狭義の科学者ではない人々の見解が、具体的な科学・技術に関わる政策や社会事象に影響を及ぼす事例も少なくはない。2020年度の研究により、社会の具体的な動向に対する科学観の影響を論ずるためには、科学者以外の人々の科学観にも一定の検討を加える必要があることが明らかになったため、2021年度は、より広い範囲の人々、具体的には、政策の立案・実施者、社会運動家、哲学者などの科学観をも考察の対象とすることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の発生により、2019年度末から2020年度にかけて予定していた海外での資料調査が実施できず、また国内での資料調査等においても支障が生じたため。2021年度も海外調査の実施は困難であると予想されるため、国内での調査に重点を移して研究を実施する。
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