研究課題/領域番号 |
18K00252
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
見上 公一 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 講師 (60589836)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ガスリー法 / フェニルケトン尿症 / 遺伝医学 |
研究実績の概要 |
本研究は、先天性代謝疾患の検査技術であるガスリー法が日本に導入され定着した経緯について科学社会学の視点から調査を行い、1960年代後半から2000年代前半までの約40年にわたる期間を通じて関係者の協働の状況と技術を取り巻く環境の変化を記述することを主な目的としている。 昨年度は、所属する大学で使用可能なデータベースを活用し、国内におけるフェニルケトン尿症(PKU)という疾患やガスリー法に関する学術文献や関連する資料の収集を継続して行ったほか、技術の導入の経緯に関するインタビュー調査の実施に向けた準備を進めた。今年度は収集済みの資料について分析をさらに進めたほか、1960年代から1970年代にかけて日本の医療システムに顕著な変化があったと考えられることから、特に先天性代謝疾患の診断と治療に関わる産科や小児科に関連する日本の医学史の文献を収集してその変化との関係性について検討を行った。ガスリー法による診断を実施するためには産科の関与が不可欠であり、日本における出産のあり方と強い関係性があることが明らかになった。 1977年に開始した新生児マス・スクリーニング制度の包括的な理解を得るためには、医療現場の状況だけでなく、行政や産業の関与について把握することが不可欠であり、またその歴史的な重要性を捉えるためにはアジア諸国との関係などの国際的な視点も必要と考えられる。これらの点については今後も継続して調査を進めることとし、関係するアクターのモチベーションやアクター間の相互的なインタラクションについて整理した上で、学術論文としてまとめる計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、先行して実施していた関連研究課題の調査スケジュールに遅れが出たことから、昨年度の時点でインタビュー調査に向けた準備に影響が出ており、今年度に収集した資料や文献の分析を進めて遅れを取り戻すことが期待されていた。しかし、所属先の大学に変更があったことに加えて、調査のために専門図書館の訪問やインタビュー調査を計画していた時期に、新型コロナ感染症が社会的な問題となり、調査活動を一切行うことができなくなってしまった。また、本研究のアドバイザーを招集してこれまでの検討の成果について議論を行う計画であったが、こちらも延期とせざるを得なくなってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も新型コロナ感染症の影響が続くことが予想されるため、関連する学会や研究会などの活動も未定であり、特にインタビュー調査の実施については慎重に検討が必要である。また、資料の収集に関しても専門図書館の利用可能状況などについて見通しが立たない。これまでの調査から、医学・医療についての資料は所属する大学で利用が可能なデータベースからも収集が比較的容易であることがわかっているため、これまでのフェニルケトン尿症とその検査技術であるガスリー法の導入という視点を少し広げて、先天性代謝疾患の医学・医療における位置付けについて検討を行うこととして今年度中に学術論文の執筆を試みる。また、本研究のアドバイザーとの議論についても、オンライン会議システムを利用することを検討する。予定していた海外調査についても、状況を見ながら判断することとし、実施が難しいと判断された場合に来年度に延期する。
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次年度使用額が生じた理由 |
インタビュー調査の実施の遅れにより国際学会での発表が実施できなかったこと、新型コロナ感染症の流行の影響を受けて国内外における調査活動が実施できなこと、本研究課題にアドバイザーとして関与している国内外の研究者を招聘したミーティングが実施できなかったことの三点が次年度使用額が生じている理由である。 これらの事柄については引き続き翌年度にも慎重な対応が求められると考えるが、資料や文献についての検討範囲を拡大することを計画しており、そのための経費として使用する。また、状況が改善して学会発表や国内外での調査が実施可能になった時のために準備を進めることで、影響を最小限に留めるようにする計画である。
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