研究課題/領域番号 |
18K00265
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
澤井 直 順天堂大学, 医学部, 助教 (40407268)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 医学学習指南書 / 初期近代の西欧医学教育 / 医学教育史 / ブールハーフェ / ハラー / 医学教育書 / 教育カリキュラム |
研究実績の概要 |
2019年度は17世紀後半から18世紀末にかけてのの医学学習指南書について調査を行なった。2018年度の調査結果により、この時代の医学研究、医学教育に影響を与えたとされているブールハーフェ(Hermann Boerhaave)とハラー(Albrecht von Haller)が医学学習指南書も執筆していたことが判明し、この二人が医学生に対してどのような主題・科目の学習を推奨したのか、それらの主題・科目は当時の医学においてどのような位置づけを持っていたのかを分析し、また同時代の別の医学学習指南書との比較も行なった。 ブールハーフェはライデン大学で医学学習についての講義を行ない、その講義録が出版された。ブールハーフェは解剖学、植物学、理論医学(生理論、病理論、症候論、衛生、治療論)、実地医学(外科、養生)の学習を行なう前に、物理学や化学の学習もするように勧めている。これらのうち、物理学はデカルト以降の、特に登場して間もないニュートンによる力学が推奨されている。ライデン大学におけるニュートン力学の導入の立役者であるブールハーフェは、それを医学生にも学習させていたのだった。このような学習科目の選定は、特に物理学と化学を初期段階に学習させる点でそれ以前や他の同時代の学習指南書とは異なっていた。 ブールハーフェの教えも受けたハラーは、ブールハーフェの学習指南書の改訂版を出版する。ハラーはブールハーフェを誤植を除き、可読性を高めるとともに、ブールハーフェ以降に出版された書籍も含め、大量の書誌情報を脚注に収録した。書籍の大半が脚注で占められ、改訂版ではなく別の書籍となっている。ハラーは大量の脚注をブールハーフェに加えることで、その医学学習の枠組みを維持しつつ、諸分野の最新の研究成果も参照可能にすることで陳腐化を防いでいた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では2019年度末までに初期近代の「医学学習指南書」の書誌目録を作成することが目標としていた。 2018年度は1750年までの医学書誌目録を確認したが、そこに記載された「医学学習指南書」についての情報をまとめて、書誌目録を作成する見通しが立ち、2019年度も同様の調査を医学書誌目録にも行ない、19世紀初頭までの「医学学習指南書」出版状況について調査した。 2019年度に集中的に解読・分析を行なったハラーの「医学学習指南書」に付された大量の脚注には他の「医学学習指南書」の書誌情報も含まれており、これにより多くの「医学学習指南書」を発掘することができ、またブールハーフェの「医学学習指南書」と同時代の他の書籍の比較も可能になった。 ハラーの「医学学習指南書」が出版された18世紀半ばまでの「医学学習指南書」については多くの情報が集まり、その目録の作成にとりかかった。ハラー以降の「医学学習指南書」の出版状況も調査し、判明した分の目録も作成中である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は「医学学習指南書」の目録作成を継続し、主要な「医学学習指南書」の比較分析を行なう予定である。 目下取り組む必要があるのが、18世紀後半の「医学学習指南書」の出版状況の把握である。ハラー以降の「医学学習指南書」の調査を行なったが、現在のところ、それ以前ほど出版数は確認されていない。より広く調査し、「医学学習指南書」の出版状況を正確に把握しなければならないが、ハラーの「医学学習指南書」が決定版となり、その他の「医学学習指南書」を淘汰した可能性もある。「医学学習指南書」出版の調査を継続するとともに、ハラーの「医学学習指南書」が与えた影響について調査を行なう必要がある。 また「医学学習指南書」の目録を作成した上で、「医学学習指南書」の出版状況の変遷を把握し、支配的な「医学学習指南書」の存在の有無や、地理的条件や宗教的条件などの条件によって支配的「医学学習指南書」が変化するのかなどの問題について分析・考察していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該科研費による成果を論文にまとめ投稿し、論文掲載費・別刷り代に助成金を使用する予定だった。 しかし、掲載が当該年度に間に合わなかったため、補助金の一部が使用されず、次年度使用額が生じた。 上記の論文は2020年度の早い時期に出版される予定なので、次年度使用額を掲載費・別刷り代にあてる予定である。
|