研究課題/領域番号 |
18K00269
|
研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
田村 誠 大阪産業大学, 全学教育機構, 教授 (40309175)
|
研究分担者 |
張替 俊夫 大阪産業大学, 全学教育機構, 教授 (50309176)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 『九章算術』 / 『海島算経』 / 『孫子算経』 / 算経十書 / 中国古算書 / 数学史 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
(1) 『海島算経』について訳注の作成と三平方の定理の図形的適用 『九章算術』の第十章にもあたる位置づけで書かれた劉徽の『海島算経』は、第九章「句股章」と関連が深く、三平方の定理を駆使した測量術が述べられている。本研究では、我々の『九章算術』研究と同様の手法で訳注を作成し、学会発表の他、2編の論文として公表した。 『九章算術』成書と考えられる後漢初期には三平方の定理は事実として知られていた。劉徽の魏の時代、三平方の定理がかなり自由に適用されていたことが「句股章」や『海島算経』からわかる。その適用の方法は、川原氏や郭書春氏の解釈では相似を用いるとされてきた。比較的近年の沈康身氏らの著作では、劉徽は長方形の等積変形を用いる形で適用していたと解釈しており、「句股章」の算題[一四]の劉徽注[34]や算題[一七]の劉注[30]などで面積を用いた説明がされていることからもそれは理解できる。本研究課題では、ユークリッド『原論』第1巻の命題43と同等の事実を基礎において、『海島算経』の算題を長方形の面積を用いて説明した。また沈氏らが計算で埋めた部分も図形的に説明を与えた。ただし、最後の『海島算経』算題[九]は、原理的に長方形を用いた説明だけでは計算できず、相似も用いていたことがわかった。 (2) 唐代の古算書として『孫子算経』の訳注の作成 唐代に成立した『孫子算経』は『九章算術』の一部の内容を易しく取り上げている一方で、算木の使用法、中国剰余定理、雉兎算など興味深い話題も取り込まれている。そこで本課題と並行して中国古算書研究会で『孫子算経』についても訳注を行っている。これについては1編の論文を発表し、さらに2編を準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初研究計画では「平成31年度の6月くらいまでに『海島算経』の訳注を終わらせ、その後『緝古算経』の全算題を解読する」としていたが、これが平成30年度内に終了した。ただし、句股術が『九章算術』成書時にどのように理解されていたかについてはまだ定かではない。そこで平成31年度の6月くらいまでは句股術の理解の時代的推移を追いたいと考えるので、(2) おおむね順調に進展している、とした。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) 『海島算経』の主要命題である句股術の扱いにまだ不明な部分があるので、まずは句股術理解の時代的推移を追う。岳麓書院蔵秦簡『数』では算題と計算、解答があるに過ぎず、『周髀算経』中の図解についても漢代の注に復元図があるのみで、紀元前中国で句股術をどのように扱ったかは定かではない。一方宋代の『詳解九章算法』や和算における句股術の扱いも参考となる。平成31年度前半は、田村が『周髀算経』や『詳解九章算法』における句股術の確認を行い、張替が和算における句股術の確認を行う。 (2) 引き続き『緝古算経』の解読を開始する。底本には武英殿聚珍版を用いる。『緝古算経』はテキストの乱れが無いので、版本を比較して校訂する、という作業は発生しない。訳注は田村と張替で作成し、月例の中国古算書研究会で確認する。前半の主担は田村の予定である。『緝古算経』も土木工事など現実の問題に即した計算になっているため、文物からの考察については同研究会で議論する。研究成果は、主として大阪産業大学論集での発表および、日本数学会・日本数学史学会・数学史シンポジウムなど適切な学会において継続的に発表する。 (3) また平行して、中国古算書研究会では算経十書の一つである『孫子算経』の訳注を行っている。これには張替が主担として加わっている。こちらはまもなく完了の予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
大阪産業大学分野別研究費(1年、300千円)を受けることができたこと、また文献のいくつかは中国古算書研究会メンバーの小寺裕氏から借り受けられたことにより、次年度へ研究経費を繰り越すことができたと考える。 平成31年度は、上記次年度使用額と平成31年度請求額の合計(724千円余)が、平成30年度の交付申請書に記載の平成31年度助成金額(650千円)をやや超える額として、当初計画の通り使用したい。
|