研究課題/領域番号 |
18K00271
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研究機関 | 東京工業高等専門学校 |
研究代表者 |
河村 豊 東京工業高等専門学校, 一般教育科, 嘱託教授 (10369944)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 戦時科学史 / 科学動員プロセス / 電波兵器開発 / 科学者と軍人 / 科学者と政治家 |
研究実績の概要 |
第2次大戦期の軍事・非軍事の研究関係について,実証的研究と理論化研究を行った.実証的研究では未分析の雑誌記事(菊池正士,仁科芳雄らの軍事研究に関する記事)の入手・分析し,未公開の仁科芳雄書簡(理化学研究所所蔵)について入手・分析を行うことができた.この資料分析により,これまで理解されたよりもこの2人の科学者が主体的に軍事研究に関わろうと動いていたことを明らかにできた.また理論化研究については,イギリス,アメリカでの「科学者と軍事研究」の事例(H.ティザード,V.ブッシュなど)との比較調査を行うことで,第一次世界大戦期での科学者の戦争体験の有無や,戦時下において学術研究が実施された日本独自の現象について,その背景を分析を行うことができた.また,近年の日本における軍事・非軍事の研究関係の事例といえる,「安全保障技術研究推進制度」との比較をおこない,背景にある科学者と軍人,政治家とのその時代の関係性の違いを分析することができた. これらの研究成果は,日本科学史学会年会でのフォーラム「安全保障技術研究推進制度を考える」2020年6月,パネルディスカッション「戦争遺跡の調査・保存・活用について」2020年12月,東工大で開催された研究ゼミでの発表「海軍電波兵器開発と物理学者」2021年2月,イギリス史の研究者主催の研究会での発表「戦時研究を行った科学者の意識」2020年3月,以上4つの研究発表で整理することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた広島県の大和ミュージアム図書館所蔵の旧海軍技術資料(統進資料)の調査,入手,分析は,出張規制によってできなかった.その他,新資料調査についての出張もできなかった.その一方で,入手を予定していた雑誌記事の入手や,偶然のきっかけもあって,未公表の仁科芳雄書簡集のディジタルデータを,関係者のご配慮により入手することができた.こうした新資料を元にして,研究事例として注目している人物(菊池正士と仁科芳雄など)についての軍事問題に関する考え方の変化プロセスを分析することができた.この点は予想を超える成果であったと考える点である. また,理論的分析については,対面での発表に代わって,遠隔手法による研究会等での発表の機会を合計で4回うることができた.4回の内3回については遠隔手法であった.こうした研究会は,これまで行ってきた資料調査とその理論化に関わる分析を,結びつけ,筋立てする機会の一つである.今回は,ネットワークを利用した3回の研究会において,参加者からの質疑,コメントが資料入手のヒントとなり,また理論化のためのアイデアを生み出す機会となった.具体的には,未分析であった文献を知ることができたこと,歴史的問題を現代の問題との比較する有効な手法があること,主要な対象としている日本の事例を分析する手段として,同時代のイギリスおよびアメリカの同様の事例を踏まえた比較の手法に新たな可能性があることなどである.入手できた新たな視点の一部については,特に,科学者と軍事技術者との比較を通して,軍事・非軍事の研究関係の理論的分析を進めることについては,断片的ではあるが,学会誌に投稿することができた.
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今後の研究の推進方策 |
資料調査と理論分析の2つの活動について,以下のような計画を立てている. 資料調査については,前年度に予定していた旧海軍技術資料の調査・入手を行うために,時期を見計らって,広島県への調査出張を行いたい.断片的に入手した資料を詳細に検討することで,入手すべき資料を事前に選定するように心がけ,現地での調査時間を短縮できるように計画をしている.同時に,未入手の資料(特に古雑誌等での入手しかできないと思われる資料)については,調査を継続するとともに,特定できた古雑誌等については,入手の手続きを進めていく予定である. 一方,研究課題に挙げた理論化の作業については,比較研究が有効であることに改めて気づいたので,(1)現代の軍事・非軍事の研究の関係と当該時代のそれとの比較,および(2)当該時代における日本と欧米(イギリスおよびアメリカなど)との比較について,重点的に行いたい.特に,(2)については,戦時中に軍事研究にかかわった複数の科学者を日本,イギリス,アメリカとを比較のために取り上げて,彼らの相互の活動(科学者と政治家,軍人との関係,および,科学者が兵器開発に関与するようになったきっかけなど)について比較分析をおこなう予定である.その際に,未分析であった資料について入手し,その分析をおこなう予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
資料調査のための出張が,緊急事態宣言ほかの自粛要請への対応のために実施できなかったことにより,旅費として考えていた予算を次の年度へ繰り越すこととした.それに連動して,物品購入予定も延期することとした. 翌年度には,延期していた資料調査を再開するとともに,当初予定してた研究会,資料調査についても実施することを予定している.ただし,資料所蔵機関等での入館扱いが,通常よりも困難となっており,この困難が翌年度内にどこまで解消するかが不透明である.その場合は,旅費として計上した費用を,物品費の一部に充てるなどの変更も考えている.
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