本研究は、日本の近世期において史実の「忍び」から虚像の「忍者」像がどのような過程で形成され、また変容していったのかを、軍記、兵学書および読本や草双紙、実録や講談、および歌舞伎や人形浄瑠璃の絵番付や台帳・正本、浮世絵といった原典資料を利用して解明したものである。 近世期に形成された忍者像を、「忍術をつかって大事なものをとって戻ってくる忍者」「超自然的な忍術をつかってお家の乗っ取りなどを謀る忍者」「軍記に登場して忍びの活動を行う忍者」の三つに分けて考察した。これらにぞれぞれについて、創作された代表的な忍者である石川五右衛門、飛加藤、児雷也、猿飛佐助など真田十勇士、風魔、あるいは従来知られていなかった様々な忍者をとりあげ、どのような過程で作り上げられていったのかを明らかにした。また、史実とは異なる忍者の黒装束・覆面や手裏剣の利用が浮世草子・演劇作品などを通して、どのように定着していったのかを明らかにした。 『太平記評判秘伝理尽鈔』から忍者忍術の用例を拾い上げることで、『太平記』だけではうかがえない楠木流の忍術が近世期においてどのように認識されていたのかを明らかにした。『太平記評判秘伝理尽鈔』は兵学と密接な関係にあり、近世における当代的な忍びの運用が創作ながら再現されていることが確認できた。 忍者の活動を記した軍記や由緒書や忍術書における挿話から、忍者の活動について創作性を見出すことも行った。 松尾芭蕉が忍者と見なされるようになった過程を「芭蕉忍者説を疑う」(『忍者学講義』)に記したほか、それ以外の本研究の成果はすべて『忍者の文学史』としてKADOKAWAに入稿を済ませた。令和3年度内に出版される予定である。
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