研究課題/領域番号 |
18K00279
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
樋口 百合子 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (90625493)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 仙覚寛元本 / 仙覚文永本 / 非仙覚本 / 歌枕名寄 / 夫木和歌抄 / 仙覚新点歌 / 田中穣氏旧蔵本 / 名所歌集未勘国部 |
研究実績の概要 |
最終年度に当たる今年度は、コロナ禍のため、『名所歌枕』『十四代集歌枕』『勅撰名所和歌要抄』などの調査を所蔵機関に赴いて行うことが殆どできない状況であった。そのため、遠方の調査を除いて、可能な調査・考察を行った。『歌枕名寄』(以下『名寄』と略称)の一写本である国立歴史民俗博物館蔵田中穣氏旧蔵『歌枕名寄』(以下『田中本』と略称)の調査・考察を行い、細川幽斎筆とされる細川本よりも百年ほど前に書写された一本であること(書写年代が明記されている)、非流布本系と目されること、一巻から三十六巻までの抄出本であること(但し未勘国上下二巻を欠落したものではなく、国名を決定し、それぞれの国に配置することによって未勘国部を消滅させたものと推察する)、『夫木和歌抄』による大量の増補があることが判明した(これは「国立歴史民俗博物館蔵田中穣氏旧蔵『歌枕名寄』について」として論を纏めた) 前年度に『夫木和歌抄』について調査を行ったが、田中本と『夫木和歌抄』との関係を調査するために、陽明文庫蔵の『夫木和歌抄』及び『夫木和歌抄』抄出本二本の調査を行った(その結果田中本が依拠した『夫木和歌抄』抄出本でないことが判明した) また陽明文庫では前年度調査した宮内庁書陵部蔵『萬葉』と関わりが深いと推定される、寂印成俊本系の一本、近衛本の調査を行っている。 『名寄』所収万葉歌は非仙覚本系であることは既に述べてきたが、その論をより明確にするために、『名寄』所収の新点歌(『名寄』全巻にわたる)と仙覚訓との比較や、現存する写本の限られている巻十六について、『名寄』所収歌の調査を行い、尼崎本、廣瀬本、類聚古集、古葉略類聚鈔、西本願寺本との比較を行い、非仙覚本系ではあるが、現存する非仙覚本とは異なる性格を持つものであるという結論を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍のため、遠方の文献所蔵機関の調査ができず、大幅に遅れた(延長願を申請し、補助事業期間の延長が認められている)。本来の予定に代わり、国立歴史民俗博物館蔵田中穣氏旧蔵『歌枕名寄』の調査・考察と論文作成、『歌枕名寄』と『夫木和歌抄』の関係、『歌枕名寄』所収新点歌の調査・考察(『歌枕名寄』全巻にわたっての調査・考察)、現存する非仙覚本の限られている巻十六の歌について『歌枕名寄』と非仙覚本、仙覚本との関係についての討究などを行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
推進方策に変更はない。最終年度は調査中の『名所歌枕』の調査を終え、所収萬葉歌について考察を行いたい。『名所歌枕』については、渋谷虎雄氏が「成立はおよそ1300年代中後期、所収萬葉歌数は1263首(重出を除くと1092首)」と多く、「内証により、仙覚新点歌、改訓の影響を受け、仙覚文永二、三年による」とした。この成立についても異論があり、新点、改訓についても猶詳細に調査する必要があろう。これまでの筆者の調査により、『歌枕名寄』や『夫木和歌抄』所収萬葉歌は仙覚の影響を受けていないことが明らかとなったのであるが、『名所歌枕』についても先学の結論を踏襲するのではなく、詳細に調査・考察を行いたい。また『十四代集歌枕』他の名所歌集についても調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は令和2年3月に行う予定であった島原松平文庫蔵『名所歌枕』及び龍門文庫蔵『十四代集歌枕』及びその他の名所歌集の実見・調査を実施することができず、そのための旅費、複写費など予算を次年度に回したためである。最終年度である次年度はこれらの調査を行う予定である。
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