研究課題/領域番号 |
18K00280
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
小助川 元太 愛媛大学, 教育学部, 教授 (30353311)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 百科全書 / 武家故実 / 戦国時代 |
研究実績の概要 |
当該年度は、『アイ嚢鈔』の新テキストの調査、『アイ嚢鈔』の電子化作業、『八幡愚童訓』『アイ嚢鈔』『源平盛衰記』の本文分析作業、部屋飾り関係資料の調査などを中心に行ったが、附属学校校長という役職にあり、学内業務で時間を取られることが多かったため、すべてを予定通りに進めることは難しかった。それでも、以下の成果を残すことができた。 1.学術誌論文「甲類系『八幡愚童訓』諸本の異同から見えるもの―承久の乱関係記事の比較を中心に―」(『伝承文学研究』68号)の公刊、2.学術誌論文「異本で読む『平家物語』―木曾の最期―」(『愛媛国文研究』69号)の公刊、3.共著掲載論文「類書・注釈書と『太平記』の関係―『アイ嚢鈔』の『太平記』利用―」(『軍記物語講座 3 平和の世は来るか 太平記』)、4.共著掲載論文「『アイ嚢鈔』の〈神護寺縁起〉―「我邦ハ神国トシテ王種未タ他氏ヲ雑エズ」―」(『唱導文学研究第十二集』)、5.研究発表「『アイ嚢鈔』の『太平記』利用」(唱導研究会)、6.研究発表「『アイ嚢鈔』と『三国伝記』」(応永・永享期文化論研究会) 1も4も前年度の学会発表に基づくものであるが、4については当該年度に再調査を行った上で入稿している。また、2は、本研究の成果に基づき、研究対象の一つである『源平盛衰記』を比較の対象としたものである。3は5の研究発表に基づいて入稿したものであるが、『アイ嚢鈔』の『太平記』利用の傾向を調査、分析したものである。また、6は日本史の研究者と共同で行っている研究会の場で報告したものであるが、『アイ嚢鈔』と室町時代に成立した説話集『三国伝記』の関係について、これまでの定説を検証する内容である。3も5も、戦国時代以降広く享受されるようになった百科全書的作品で、本研究の主たる対象作品である 『アイ嚢鈔』の性格を捉える上で重要な研究成果であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
〈研究実績の概要〉でも述べたとおり、すべてを予定どおりに進めることはできなかった。論文や研究発表は順調だが、絶対的な時間不足により『後素集』に関する作業はほとんどできなかった。また、『アイ嚢鈔』新テキストの奥書に書かれた情報についても、継続した調査が必要である。ただし、『アイ嚢鈔』の本文分析については、かなり進み、とくに『太平記』や『三国伝記』といった周辺作品との関係については、これまで定説とされていたことへの問題提起をすることができた。同時に『アイ嚢鈔』に表れた中世後期の思想的状況や、百科全書的な作品の生成や享受に関わる問題もより鮮明になりつつある。成果として公表してはいないが、武家故実や部屋飾りと大名家の蔵書との関係についての調査も同時進行で進めており、少しずつではあるが、データも蓄積されている。その意味で、絶対的な研究時間が不足していたわりには、大きな成果を上げており、全体的には順調に進展しているといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
『アイ嚢鈔』や『後素集』の電子化作業を継続して進めるとともに、『アイ嚢鈔』新テキストの書写・享受に関わる調査も継続する。また『アイ嚢鈔』と『三国伝記』の関係については、引き続き調査を行う。ただし、今年度は新型コロナウイルスの影響で、パネルが採択されていたヨーロッパでの学会が次年度に延期となってしまったため、海外での報告ができなくなっただけではなく、国内での調査や報告も難しい状況である。とはいえ、今年度が本研究の最終年度となるため、できるだけ県内でできる研究・調査を進めたい。予算も、当初旅費に充てる予定だった分を、県内での研究の充実のための書籍・資料の購入に充てることになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスのため、年度末に予定していた県外への出張が二つなくなった。次年度の図書の購入費用として残すことにした。とくに今年度使用できなかった予算については、図書・資料の購入に充てる予定である。
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