研究課題/領域番号 |
18K00280
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
小助川 元太 愛媛大学, 教育学部, 教授 (30353311)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 百科全書 / 武家故実 / 戦国時代 |
研究実績の概要 |
当該年度は、『アイ嚢鈔』の電子化作業、『アイ嚢鈔』と『三国伝記』の本文分析作業、『源平合戦図屏風』関係資料の調査などを中心に行ったが、当該年度から教育学部長に就任し、通常の学部長としての業務に加え、コロナ禍への対応で時間を取られることが多かったため、すべてを予定通りに進めることは難しかった。さらに、県外への調査にも行けず、また、参加を予定していたヨーロッパの学会も延期となるなど、予定していた研究を進めることが困難であった。研究業績としては調査が進まなかったこともあり、公刊できたものが書評1点以外はないが、入稿済のものも含めると、以下の3点となる。 1.共著掲載予定論文「河野本『源平合戦図屏風』に描かれた『平家物語』―「一の谷合戦」における忠度・通盛・教経を中心に―」(中根千絵編『中世から戦国の合戦図をめぐって』、勉誠出版、2021年刊行予定)入稿、2.学術誌論文掲載予定論文「教育学部の学生と読む古典文学―必修科目における『平家物語』『太平記』の読みの実践を中心に―」(『中世文学』66号掲載予定)入稿、3.書評「書評と紹介 大坪亮介著『南北朝軍記物語論』」(『日本歴史』876号、2021年5月) 1の論点の中心は、安土桃山時代の大名による能の流行が『源平合戦図屏風』の表現に影響を与えていた可能性について証明した部分である。これは戦国時代から近世にかけての部屋飾りとしての合戦図屏風の制作と享受の問題に繋がるものとして、今後の本科研費研究にとって重要な成果に位置づけられるものと考えている。2は本科研費研究と直接の関わりはないが本研究で進めてきた『平家物語』や『太平記』の享受史の研究が、大学教育の現場でも活かすことができた事例である。また、3も本研究を推進する上で得た知見を生かすことができた成果として挙げておく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
〈研究実績の概要〉でも述べたとおり、すべてを予定どおりに進めることはできなかった。論文は入稿したものも含めて継続して進めているものの、絶対的な時間不足により『後素集』に関する作業はほとんどできなかった。また、『アイ嚢鈔』新テキストの奥書に書かれた情報についても、継続した調査が必要である。ただし、『アイ嚢鈔』の本文分析については、『三国伝記』との共通説話との比較を中心に順調に進んでおり、現在その成果をまとめているところである。また、入稿済の『源平合戦図屏風』についての論考は、戦国時代・安土桃山時代といった中世後期における百科全書的な軍記物語享受と武家故実との関係にも深く関わるものとして、新たな研究の展開が期待できる成果となった。令和2年度はコロナ禍の影響で大名家の蔵書の調査が進められなかったが、調査が可能になった段階で再開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
『アイ嚢鈔』や『後素集』の電子化作業を継続して進めるとともに、『アイ嚢鈔』新テキストの書写・享受に関わる調査も継続する。また『アイ嚢鈔』と『三国伝記』の関係についての論文を完成させる。令和3年度に延期となった海外学会での報告については、学会がオンライン開催となったので、それに向けて準備を進める。大名家の蔵書を中心とした国内での調査は未だに難しい状況であるが、まずは県内でできる研究・調査を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度は海外の学会発表を予定しており、採択もされていたが、コロナ禍で次年度に延期となったため、海外出張旅費として予定していた分を使用できなかった。また、県外での研究会や学会がWeb開催になったり、開催されてもコロナ禍の影響で出席できなかったり、県外での調査もできなかったりしたことで、旅費として予定していた分を使用することができなかった。次年度も旅費としては使用が難しいが、現地調査が難しい分、県内でできる調査や研究を進めるために、貴重書籍の購入や集めた資料を分析したり加工したりするための機器の購入に充てる予定である。
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