本研究では、戦国時代の政治や文化を支えた「知」のありようについて、百科全書的な特徴を持つ文芸作品の生成と武家故実の関わりという視点から解明した。具体的な成果としては、以下のとおりである。1.室町時代に成立した『アイ嚢鈔』の本文分析をもとに、武士に影響を与えた『太平記』の享受や、定説とされていた『三国伝記』との関係について、新たな知見を示すことができた。2.武家の儀式の際に『吾妻鏡』や「軍書」が飾られていた記録から、部屋飾りの書物が儀式の場を意味づける役割を果たしていた可能性を指摘した。3.戦国時代に制作された「源平合戦図屏風」の中に、当時武士に愛好された能の影響が見られることを指摘した。
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