研究課題/領域番号 |
18K00283
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研究機関 | 山口県立大学 |
研究代表者 |
加藤 禎行 山口県立大学, 国際文化学部, 准教授 (10318727)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 楢崎勤 / 新潮 / 新潮社 / 雑誌メディア |
研究実績の概要 |
本研究計画は、昭和戦前期の雑誌『新潮』の編集に従事した作家・編集者の楢崎勤に宛てられた諸家の書簡についての調査研究を主眼とするものである。調査対象となる楢崎勤宛諸家書簡は、山口県立大学が所蔵する49通の書簡を調査対象とする。 初年度である2018年度は、本研究計画が調査対象としている、楢崎勤宛諸作家書簡について、①書簡、封筒等の採寸、②消印等の郵便物情報の採取、③書簡本文、封筒の表書き・裏書きの翻刻、④書簡が言及する作家・作品・出版物・『新潮』等の当該号の調査・研究、⑤書簡資料が示唆している出来事や証言等についての、確認のための文献資料調査、⑥当該書簡資料の価値付けといった作業を行っていくために、600dpiフルカラーのJPEGデータの作成を終了させた。こうした、デジタル処理を行うことで、判読しにくい消印のデータ等についても、画像のコントラスト調整により濃淡を操作し、判読ができるようになった。 また書簡本文の翻刻データ作成など①②③の作業については、順調に進行させることができ、研究計画段階で未翻刻であった書簡のテキストデータ化もおおむね終了させた。そして、④と⑤の作業を推進するために、雑誌『新潮』の閲覧を通じた文献資料調査も順調に行うことができている。併せて、2018年度は、昭和初年代の楢崎勤と雑誌『新潮』が深く関わった、新興芸術派の文学活動についての基礎的な文献資料調査を行い、新潮社が刊行していた新興芸術派叢書の閲読も同時に進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近代以降の私信を資料として研究するこの研究計画は、私信の公開に際して、直面する問題がある。手紙の送信者について没後50年が経過していない場合は、書簡もまた著作物であるという見地から、著作権法の保護を受ける。また書簡資料は著作物であると同時に、雑誌掲載等の公開・公表を前提として書かれた創作の原稿とは異なり、私信である。現在、日本著作権協議会刊行の『著作権台帳』は、個人情報保護の見地から、2001年第26版をもって刊行を停止している。 こうした個人情報保護の時代において、楢崎勤ご遺族の連絡先については確認できているが、書簡の発信者のなかに、著作権継承者や私信の公開の是非を判断できるご遺族にコンタクトできないと事態が起こっている。しかしながら、粘り強く関係者や遺族の探索を続け、本研究計画を遂行して行こうと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画書を作成していた時点で、予測されていたことではあったが、近代文学における書簡資料についての調査・研究については、研究成果の公表にあたって、書簡を執筆した著者の著作権継承者・遺族を探し出すことが、最終的な困難となる。 2019年度は、この書簡を執筆した著者の著作権継承者・遺族の探索に力点を置いて、研究を進めていきたいと考えている。幸いなことに2019年度に入ってから、楢崎勤宛佐多稲子書簡に関連して、佐多稲子の現在の著作権継承者とコンタクトをとり、面会する機会を得た。そして、佐多稲子資料の公開についてのご理解と同意を頂くことができたため、2019年度のうちに、楢崎勤宛佐多稲子書簡の公表を行う目途が立っている。2019年度は、2018年度に行った、書簡資料の翻刻および解題作成の成果を、公開に結びつけられるよう研究活動を推進して行きたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の研究においては、本務校が所蔵する書簡資料のデジタルデータ化および翻刻作成に多くのエフォートを割いたため、新規の物品購入費や旅費等を執行して、発展的な研究をすすめるというよりは、基礎データの充実に力点が置き、当初予定していた発展的な調査を次年度に繰り延べたため。
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