2021年度においては、コロナ禍の影響による研究計画の変更をふまえ、既に終了した資料調査の範囲で可能な限りにおいて、本検討課題に関する成果をまとめるべく努めた。調査出張については、2020年の当初(2019年度の終わり)より実施できておらず、21年度においても実施できなかった。 その一方で『先祖の話』に関する論考を発表できたことが、まずは特筆すべき成果となる。この論文では、テキストを表現論の観点から分析し、更に同時代状況との関連をも視野にいれることから、テキストの価値と可能性を発掘することを目指した。この点においてこの論考は、本研究課題の一つの集約的な成果といえるものである。表現に関しては、特にテキストの構成と文体の特質に注目し、同時代状況については、特に「神道指令」に代表される神道に対する諸政策と、旧家族制度をめぐる民法改正に関わる動向に注目した。そのような検討の過程において、2019年度後半までに行った資料調査の結果を反映させることもできた。 そのうえで更に別の論文として、1920~21年にかけて『朝日新聞』に連載された『豆手帖から』『秋風帖』『海南小記』の分析も進めた。これらのテキストは、従来柳田における「旅と紀行文」の性格を示す一資料として理解されたきたといえるが、本研究では、柳田が全国紙というメディアにおいて、自らのその後の執筆活動における文体や方法を模索した痕跡としてそれらを理解できるという立場にたち、そこで展開された種々の試みを分析した。そしてそこから、柳田における言葉の戦略の試行や確立のプロセスを跡付け、更に本研究課題のテーマである、柳田の表現がもつ「現代的意義」までを浮き彫りにすることを試みた。そのような検討の成果については、2022年度にかけて論文作成をし、順次発表できる見込みである。
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