研究課題/領域番号 |
18K00292
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
牧野 悠 帝京大学, 理工学部, 講師 (50571626)
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研究分担者 |
小嶋 洋輔 名桜大学, 国際学部, 上級准教授 (50571618)
高橋 孝次 帝京平成大学, 現代ライフ学部, 助教 (20571623)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メディア研究 / 昭和史 / 近代文学 / 日本文学 |
研究実績の概要 |
2018年度における事業全体の活動としては、今後の研究方針に関するミーティング及び論文や学会発表に向けた研究会を計6回開催した。研究会では中間小説誌の掲載作品、執筆作家、関連するメディアイベントを対象に意見交換しており、それに基づき研究代表者、研究分担者が多角的に研究を推進した。 研究代表者である牧野悠は、中間小説誌における時代小説ジャンルを考察する目的から、山田風太郎作品を対象に調査・分析を行った。本研究は、牧野悠(2018)「歴史をあざむく陰のわざ―柴田錬三郎と山田風太郎の忍法小説―」(『昭和文学研究』第76集)で提示した、昭和期大衆文学における忍者・忍法についての問題系を継承・発展させたものであり、今後も継続的に検討していく。また、中間小説誌の書き手を多数輩出した長谷川伸を中心とするグループ「新鷹会」と、その機関誌『大衆文藝』に関し、国立国会図書館及び日本近代文学館において所蔵資料調査を行った。 研究分担者である小嶋洋輔は、第三の新人による純文学誌に掲載された私小説作品と、中間小説誌に発表されたエッセイとの関係性を解析した。小嶋は基盤研究(C)17K02464「〈私〉性の調査と〈自己語り〉ジャンルとの比較による日本「私小説」の総合的研究」の研究分担者でもあるため、私小説ジャンルの変容に中間小説誌が果たした役割という独自の視座からの検討を続けている。 研究分担者である高橋孝次は、中間小説誌及び周縁に位置する雑誌群を舞台とするメディアイベントとしての文学賞について、調査・分析を進めている。2019年5月に開催される昭和文学会第64回研究集会において、このテーマに基づく発表が決定している。高橋は基盤研究(C)16K02400「水上勉自筆資料の総合的調査による研究基盤形成」の研究分担者でもあり、中間小説誌における水上勉の位置付けについても、並行して研究を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、本事業の前身である基盤研究(C)24520205「中間小説誌の研究―昭和期メディア編成史の構築に向けて」における調査で取得した資料を活用したこともあり、論文や学会発表といった成果を予想以上に多く発信できた。2名の分担者は他の科研費事業にも携わっているため、良質な相乗効果があったと考えられる。 また、研究代表者である牧野は、『大衆文藝』に関する調査の過程で、戦中期の大衆文学読者から発された中間小説を待望する言説や、「中間小説」の語が一般化していく過程で大衆小説がいかに反応したかを示す資料を収集した。また、推理小説専門誌『宝石』の誌名を継承した、光文社刊『小説宝石』についても調査している。入手した情報は、参加研究者間で共有され、今後の研究において参照されるだろう。 一方で、当初計画していた小説作品と挿絵の関係性についての分析は、予定よりも遅れている。資料調査において意識的に挿絵の収集も続けているため、それらを積極的に活用し、成果へとつなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度から引き続き、研究代表者と研究分担者が、それぞれの問題意識に基づく論文発表及び学会発表を継続する。とりわけ、高橋による昭和文学会での発表を事業全体で支援する。そこで示された知見や研究手法が共有されることで、各人が取り組む研究の円滑化も期待できる。 さらに、研究代表者及び研究分担者による共同研究として、文藝春秋新社を対象とする調査・分析を開始する。文藝春秋新社は、戦前より発行され、戦後は三大中間小説誌の一角であった『オール讀物』の発行元である。これまでの調査で先駆的な数々の試みがなされていたと判明しており、より重点的に検討する必要性を認識しているためである。なお、目次や掲載コンテンツとともに、グラビア及び広告も調査対象とする。『オール讀物』では、作家を被写体とするグラビア企画が度々企画されており、同時代の作家表象を考察する手がかりとなるだろう。また、広告の調査は、想定読者をより明確に推測するための有力な参照項たり得ると予想したためである。以上で入手した情報を、HPでデータベースとして発信する基盤整備にも着手したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
短期間で集中的に資料調査を行った結果、宿泊費及び交通費を大幅に節約できたためである。国会図書館等では従来よりも複写サービスが充実し、調査が効率化した結果、1日あたりの複写枚数が増加し、赴く回数を抑えることができた。また、複写費用として計上した「その他」の経費についても、国立国会図書館で資料のデジタル化が進んだため、費用を抑えることができた。差額については、次年度以降に調査の期間・回数・範囲の充実に用いる予定である。具体的には、複写対象とする雑誌コンテンツの追加や、比較的複写費の高額な日本近代文学館、大宅壮一文庫等での大規模な調査に充てたい。
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備考 |
書評論文:小嶋洋輔「長濱琢磨『遠藤周作論-「歴史小説」を視座として』」、『昭和文学研究』、第78集、192-194、(2018) シンポジウム(基調報告及びパネリスト):小嶋洋輔「シンポジウム「道の島と伝承」パネリスト「島尾敏雄と昔話-島尾敏雄『東北と奄美の昔ばなし』から」、平成30年度奄美沖縄民間文芸学会名護大会(名桜大学)、(2018)
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