最終年度においては、地蔵寺所蔵文献資料のうち、開基である蓮体とその師匠である浄厳に関係する仏教関係書(いわゆる「聖教」。写本中心)をできるだけ調査し、データ化することに努めた。その結果、浄厳を祖とする「新安祥寺流」(真言密教の一派)の資料が蔵されていた10箱分については、各資料に整理番号を付すことができた。そのうちの蓮体と浄厳に直接関わる資料については、書誌や奥書をほぼ全点データ化した。 また、最終年度は代表者が編集を務め、上記の地蔵寺所蔵文献の研究が一つの大きな柱となる『寺院文献資料学の新展開 第8巻 新安流とその周縁』刊行に向けて動きを加速させた。当該書籍については、2024年度内の刊行を予定している。 研究期間全体を通じては、研究期間前に新たに見出された上記の聖教の調査をメインとして進めるとともに、それまでの調査で蓄積していた版本を中心とする49箱分のデータ(ほぼ9割以上終了)の確認と整備を進めた。 本研究は、寺院へ赴き実地に調査することが作業のメインとなるため、コロナ禍により滞らざるを得ない期間もあったが、地蔵寺の調査は回数を減らしながらも継続し、それとともに、香川の覚城院、岡山の安住院、大阪の金剛寺などの真言密教の寺院の文献資料調査(他の研究者との合同調査)も行った。これら複数の寺院におけるデータを照合していくと、予想以上に密であった寺院間のつながり、新安祥寺流の伝播の広がり、人やモノの動きの具体相が明らかになってきた。また、地蔵寺ではもともと版本調査を主流としており、寺院所蔵文献における版本の存在に注目していた本研究代表者としては、上記の他寺院でも版本の調査を写本(調査ではこちらがメインとなることが多い)と並行して行うことを提言し、実施に移した。
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