本研究では、特に院政期から鎌倉時代、さらには室町時代をも視野に入れ、中世に神詠が大量に出現し、さらに多様な解釈が展開した動向を明らかにした。 2021年度は、研究実施計画に沿って、2020年度までの研究成果をまとめた。 第一に、中世の和歌、学問、思想を考える上で重要と思われる神詠の整理である。対象として、「中世に新たに創出された神詠、及び神詠説・説話」「従来知られた歌の作者に神を当てた神詠、及び神詠説・説話」がある。さらに「記紀神話に見られる神詠をめぐる解釈」も加える。そして、収集した資料をもとに、神詠と、その神詠をめぐる言説・説話について整理を進めた。 第二に、ある和歌がどのように神詠として形成され、解釈が展開したのかを分析することである。第一で整理した神詠のうち、いくつかについて資料をもとに分析を進めた。 第三として、中世に神詠が果たした役割について考察した。 以上の研究成果を、単著『歌詠む神の中世説話』として公刊した。第1章で、「中世神詠史素描」として、中世の神詠の流れを整理した。第2章では春日明神の「ふだらくの」歌、第3章では山王権現の「わがいほは」歌、第4章では下照姫の「からころも」歌、第5章では北野天神の「いざここに」歌をそれぞれ取り上げ、分析と考察を行った。付章として、熊野・白山と天地開闢説話について論じた。この他に、序章では中世歌学における素戔嗚の神詠の形成について、終章では神詠と共通して、人口に膾炙した和歌が異なる伝承や作者と結びつく様子について言及した。
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