研究課題/領域番号 |
18K00308
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
石上 阿希 国際日本文化研究センター, 研究部, 特任助教 (20516819)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 出版文化史 / 京都 / デジタルアーカイブ / 意匠 / 絵入百科事典 |
研究実績の概要 |
本研究では、17世紀から18世紀の京都において刊行された絵とことばで事物を図解した「絵入百科事典」的書物が果たした「知」の大衆化を明らかにする。 第一に、儒学者中村惕斎が編纂した『訓蒙図彙』(寛文6年[1666]序)について、惕斎がいかに学問知を収集・分類し、初学者向けの書物として作り上げたのか。また、近代にまで続くその影響を考える。2019年度は諸本の書誌調査、影響を受けた万国人物図の調査と単著の執筆に重点を置いた。調査実施箇所は、大英図書館、京都大学国文学研究科図書館。諸本調査については論文にまとめ、2020年度に発表予定である。 第二に浮世絵師西川祐信が描いた着物の図案集『正徳ひな形』(正徳3年[1713]刊)について、古典文学、教養のデザイン化の過程や着物を公家や商人といった階層毎に分けた祐信の思想を検証する。本書については2013年より研究会を継続している。本年度も12回を実施し、全図の翻訳・語釈を完了した。その成果の一部は2019年4月~5月に渋谷区立松濤美術館で開催される展覧会で公開した。また、千總文化研究所が所蔵する『正徳ひな形』の撮影も行った。 第三に、絵入百科事典研究会を年2回開催した。国内外の文学史、日本史、芸能史、意匠史研究者などが研究発表を行い、活発な議論を行った。その成果を2020年度に論文集として刊行予定である。 第四に、『訓蒙図彙』および、それに類する絵入百科事典的書物の翻刻とデジタルアーカイブ化を行い、国際日本文化研究センターのサイトにて公開中の「近世期絵入百科事典データベース」にて国内外に広く発信、共有する。今年度は資料12点の翻刻・確認・画像処理を進めた。また、寛文六年序『訓蒙図彙』の英訳も完了した。この他、国際日本文化研究センターの「古事類苑本文データベース」との接続を完了し、コンテンツの拡充を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019度は研究成果の蓄積に重点を置きつつ、展覧会・データベースでの発信も行った。 研究代表者が監修をつとめた展覧会「女・おんな・オンナ―浮世絵にみる女のくらし」(2019年4月~6月、渋谷区立松濤美術館)において、小袖と雛形本を展示し、階層ごとの装いの違いなどを示した。また、図録では解説の他、研究論文「錦絵は何をうつしたか」を執筆し、講演会では「錦絵に描かれた女、描かれなかった女」というテーマで発表を行った。 絵入百科事典研究会を年2回行い、国内外の文学史、日本史、芸能史、意匠史研究者などが研究発表を行い、活発な議論を行った。その成果を2020年度に論文集として刊行予定である。研究代表者は寛文版『訓蒙図彙』についての諸本調査に基づき、論文を執筆した。また、最終年度までに『訓蒙図彙』に関する単著を刊行する準備を進めている。 雛形本研究会も12回を開催し、翻訳・語釈の出版化を進めた。またこれまでの研究会で話し合われた問題点について長崎巌教授を招聘し、質疑応答を行う研究会を2020年3月18日に開催した。 この他、国際日本文化研究センターで公開中の「近世期絵入百科事典データベース(試作版)」で公開するため、『頭書増補訓蒙図彙』、『頭書増補大成』、『日本誌』、『廻国奇覧』など12点の絵入百科事典関連資料の画像処理、メタデータ入力を行った。また寛文六年序『訓蒙図彙』の英訳も完了した。2020年度は確認作業を行い、公開する予定である。 最終年度の出版物刊行、データベース完成版にむけておおむね順調に進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
『訓蒙図彙』については引き続き諸本調査を行う。また、万国人物図の調査も進めて『訓蒙図彙』と近世初期出版物との影響関係を考察する。雛形本研究会では翻刻・語釈の見直し作業、論文執筆を進める。 「近世期絵入百科事典データベース」では元禄版・寛政版の『訓蒙図彙』の他、「訓蒙図彙もの」の翻訳・画像処理を進める。また、英訳版の公開も行う。 これらの研究については人間文化研究機構広領域連携型基幹研究プロジェクト「異分野融合による「総合書物学」の構築」における国際日本文化研究センターユニット「文化・情報の結節点としての図像」とも連携させ、国際シンポジウムや論文集の編集を実施しながら研究を推進させていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究成果発表費用として計上していたデータベースデザイン費について、デザインの改訂が2019年度以降に予定変更となったため、費用が発生しなかった。 (計画)次年度以降『訓蒙図彙』諸本調査、国際学会での発表、データベースの更新、論文執筆、雛形本研究書の刊行などを計画している。次年度使用額と当該年度以降分と併せて、旅費・資料整理の謝金・資料の購入費・図版使用料などにあてる。
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