本研究は、17世紀から18世紀の京都において刊行された「絵入百科事典」とそれに類する書物を対象として、それらが「知」の大衆化に果たした役割を明らかにすることを目的とする。最終年度では、これまでの研究の成果として研究書の出版と関連シンポジウムの開催、データベースのリニューアルを行った。 (1)本研究では2013年に開始した西川祐信雛形本研究会の成果を『西川祐信『正徳ひな形』―影印・注釈・研究―』(臨川書店、2022年2月)としてまとめた(若手研究(B)23720126、本科研費)。正徳3年(1713)、京の書肆八文字屋から小袖図案集『正徳ひな形』が出版された。本書は小袖を公家、武家、町人、遊女、若衆、野郎といった階層、職業別に分類し、それぞれに相応しい図案を提案したものである。研究会では雛形本を当時の階層意識や都市風俗、版本による教養・知識の普及などを知る重要な書物として捉え、図案の背景にある文化の読解を試みた。雛形本全丁に対して翻刻・語釈を行い、図案に描かれた事物、色、染織技法を詳細に考察した。索引も付し、人物や小袖、染織に関わる言葉と絵を引くことができる事典としても使える研究書とした。また、本書と関連して2022年3月20日にオンラインシンポジウム「小袖をめぐる言葉と形―西川祐信『正徳ひな形』を読む―」を開催し、その成果を広く内外に発信した。 (2)寛文6年(1666)序『訓蒙図彙』を核として、明治初期までの絵入百科事典の図像と語彙を検索できるデータベース「近世期絵入百科事典データベースhttp://kutsukake.nichibun.ac.jp/EHJ/」を構築し、2017年に試作版の公開を行った。最終年度では、正式版としてIIIFビューアを用いた画像比較機能や掲載書目の解題の追加、操作性の向上などを行い、2022年4月に国際日本文化研究センターのサイトで公開を開始した。
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