研究課題/領域番号 |
18K00316
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯田 祐子 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (80278803)
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研究分担者 |
中谷 いずみ 二松學舍大學, 文学部, 准教授 (10366544)
笹尾 佳代 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (60567551)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ジェンダー / 左翼運動 / 文化生産 / セクシュアリティ |
研究実績の概要 |
2018年度は二回の研究会を開催し、本研究の研究課題をめぐる研究状況について多角的に検討を行った。第一回研究会(2018.12.1、於名古屋大学文学部205)では、飯田祐子が「マルクス主義フェミニズムについて:過去と現在」、笹尾佳代が「女性プロレタリア文学に関する研究動向」の報告を行った。飯田は、労働領域の近代的生成と労働環境におけるジェンダー構造に関する理論的整理を行い、1930年代を対象とする本研究との接点を探った。また笹尾は、個別の作家研究の蓄積をふまえつつ、総合的な研究が不足している現状について報告した。従来の研究はマルクス主義系の運動に集中しており、アナキズム系の運動や農民文学については未開拓の部分が大きい。複数の運動領域間の移動や影響関係、また亀裂や多様性について検討する必要性について議論した。第二回研究会(2019.2.10、名古屋大学文学部130教室)では、李珠姫が「英語圏のプロレタリア文化研究」について報告を行った。英語圏における女性左翼雑誌についての研究について詳細な検討をし、主流の女性雑誌とは大きく異なる文化実践についての指摘を確認するとともに、雑誌の単位での検討の重要性について議論した。個々の研究成果としては、中谷いずみ「空白の「文学史」を読む―プロレタリア運動にみる性と階級のポリティクス」(『日本近代文学』98、日本近代文学会、 2018.5)、飯田祐子「左翼情報の流動性とジェンダー:『女人芸術』と『戦旗』」(タイ国日本研究国際シンポジウム2018、チュラロンコーン大学、2018.8.25)、笹尾佳代「スキャンダル報道言説への反照 ― 柳原白蓮『荊棘の実』の射程」(同)、飯田祐子「闘う少女 働く少女 in the 1930s」(国際シンポジウム:〈帝国〉日本をめぐる少女文化、名古屋大学、2019.3.8)などを発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は初年度として、本研究課題である「1930年前後左翼運動の文化実践におけるジェンダーとセクシュアリティ」について、研究状況の多角的検討を行ったが、以下の二点が重要な方向性として確認された。第一に、理論的な枠組みとして、公私の領域のジェンダー化を考えるにあたって、両領域を二元的に捉えるのではなく、内部と外部が構成的に組み合わされていると捉えることで、その動的な関係を分析することである。主として参照したマルクス主義フェミニズムは現代社会を分析の対象としているが、1930年代においても外部として配置されるものに注目することが必要となるだろう。第二に、左翼運動の中の多数性とその関係性についての積極的検討である。左翼運動のなかで中心的に展開してきたのはマルクス主義的な思想であり、研究状況もまたそれに応じている。しかしながら1930年代の無産者運動では、アナキズム系の運動や農民運動なども並列しており、文化実践に携わった作家や活動家には、一貫して一つの立場を貫いた者もいるが、必ずしもそうではなく運動の領域を移動した例も多々ある。それらの関係性について検討する必要が確認された。具体的な検討課題としては、①運動の主体形成とジェンダー内の多層性、②運動組織の生成と階層性、③運動のナラティブ、の三点を研究計画に掲げたが、それらの論点についての検討は個々に進めた。①を担当する飯田は、「少女」表象に焦点を絞って、男性作家と女性作家の作品を比較し、その差異を抽出するとともに、主体形成と表象との関係性に、ジェンダー差があることを指摘した。②を担当する中谷は、ジェンダーと階級が組み合わされる際、死角化される部分について検討した。③を担当する笹尾は、セクシュアリティに関わる言説が流通する様相を分析した。総合的な検討は今後の課題だが、今年度は個別の論点に関して各々が研究を進展させた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、個別の論点での検討を、さらに積み重ねる予定である。三回の研究会を実施し(7月、12月、1月)、またプロレタリア文学研究者を招いてセミナーを開催する(9月)ことを予定している。 個別の課題と担当者は変更せず、継続して検討を進める。①運動の主体形成におけるジェンダーについては、飯田が担当する。運動の主体形成において男性性、女性性、また子ども性の構築がどのように機能しているかという課題の検討を進める。分析対象として、左翼運動系の新聞および雑誌、また1930年代に刊行されたプロレタリア文学のアンソロジーを取り上げる。左翼運動における文化実践においては、読者の獲得は、運動への動員を意味するが、その戦略とジェンダー構造の関係について考察することで、主体形成の過程の分析を進める。②運動の組織生成における階層性とジェンダー化は、中谷が担当する。とくにマルクス主義系運動とアナキズム系運動との関係性についての分析を進める。複数の運動を比較検討し、その組織生成にジェンダーおよびセクシュアリティのポリティクスがいかに組み入れられているか、雑誌を分析対象として考察する。③運動のナラティブにおけるジェンダーとセクシュアリティのナラティブの混淆については、笹尾が担当する。社会運動の文化実践に、恋愛や性、家族などについての語りが、いかに組み込まれているかという点について、分析を進める。それらの領域は、運動の中心から排除される傾向があるが、同時に排除される領域として中心を支えており、その動的な構成について検討する。 また研究会での議論をより充実させるべく、以下の三名を各回のディスカッサントおよび報告者として迎える。泉谷瞬(大谷大学)、池田啓悟(立命館大学非常勤)、李珠姫(筑波大学院生)。いずれもプロレタリア文学についてのジェンダー分析に関する業績があり、本研究の深まりが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入したデジタル資料(『昭和戦前期プロレタリア文化運動資料集』)の推奨環境に変更が予定されていたため、PCの購入を次年度に見送った。変更後の状況を確認した後、2019年度に、PCを購入する。
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