研究課題/領域番号 |
18K00316
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯田 祐子 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (80278803)
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研究分担者 |
中谷 いずみ 二松學舍大學, 文学部, 准教授 (10366544)
笹尾 佳代 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (60567551)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プロレタリア文学 / ジェンダー / セクシュアリティ / 左翼文化運動 |
研究実績の概要 |
2020年度は、コロナの影響で調査等に支障が発生し、残念ながら、予定通りに進んだとはいえなかったが、オンライン開催の形で、三回の研究会を実施し、運動の論理とジェンダーとセクシュリティのポリティクスとの複合的機能の検討を進めた。第7回研究会(2020年7月19日)では、飯田祐子が「プロレタリア文学運動における「金」のジェンダー化」について報告した。『文芸戦線』と『戦旗』における、ブルジョア・ジャーナリズムに対する抵抗の様相をまとめ、小説におけるナラティブにおいては「金」を得る行為が女性化することを指摘した。第8回研究会(2020年8月25日)では、笹尾佳代が「左翼運動と廃娼運動の交差; 賀川豊彦「偶像の支配するところ」/松村喬子「地獄の反逆者」の報告を行い、賀川豊彦の活動を中心に、左翼運動と廃娼運動の関係性について考察を行った。両報告とも、社会運動の周縁を可視化した。第9回(2020年12月20日)は、鳥木圭太が「メディアとしての身体: 葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」における女性表象」の報告を行い、左翼運動におけるメディアの機能について考察を行うとともに、小説における女性表象がどのように組み入れられているかを論じた。社会運動における文化実践の動員力に異性愛的情動が導入されている具体的様相が確認された。個別の成果として、飯田は学会発表「Outside Prison: Proletarian Literature and the Family」(Association for Asian Studies 2021、オンライン、2021年3月27日)、中谷いずみは、論文「フェミニズムとアナキズムの出会い―伊藤野枝とエマ・ゴールドマン」(『有島武郎研究』第23号、2020年5月)を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は計画における最終年度であり、パネル等の形で学会報告を行う予定であったが、コロナの影響で研究の進度に遅れが出たため1年延長することとした。 現在までの成果として、運動の主体形成の点では、中心的な(男性中心的でもある)左翼雑誌における運動の報道と、女性雑誌における運動の報道との差異が確認され、後者においては女性の運動主体の形成がみてとれることや、女性作家によるプロレタリア文学作品においても女性の運動主体の形成が確認されることなどが明らかになった。また運動組織の生成と階層性に関しては、左翼運動と廃娼運動とのつながりや、ハウスキーパーの多様性と配置の問題などを通して検討を行ってきた。さらに、左翼運動における反資本主義的な階級闘争の論理と、ジェンダーやセクシュアリティの力学との複合的な機能については、「金」に関わる表象のジェンダー化という点や、左翼運動に人員を動員するための独自のメディア形成にセクシュアリティのナラティブが組み合わされている点などを指摘することで、検討を進めてきた。 これらの個々の分析を総合的に考察することが残された課題となっている。最終的には、先行研究において論じられてきた女性に関する差別的な待遇などの指摘にとどまらず、運動における「構成的外部」(主流の問題系を構成するために分節された外部あるいは他者)として女性が配置されることを明らかにし、二元的なジェンダーの力学や、異性愛的セクシュアリティのナラティブが、左翼文化運動の生成や動員において不可欠な要素であること、その重要性を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、日本近代文学会春季大会(2021年5月23日)においてパネル報告を行う。パネルは四つの報告によって構成する。鳥木圭太「メディアとしての身体―葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」における女性表象」では、葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」(『文藝戦線』一九二六年一月)の中で女性表象が男性主体の欲望を喚起する媒体(メディア)として立ち上がる様相を考察する。笹尾佳代「プロレタリアとしての娼妓表象と廃娼運動」では、一九二〇年代後半、廃娼運動の高揚とともに登場していた娼妓の表象/自己表象をとりあげ、娼妓をめぐる物語には、実態を〈労働〉と捉える視座や、労働運動家の助力によって「自由廃業」を遂げる過程が共通して描かれることを確認したうえで、運動の周縁に配されていたジェンダー・セクシャリティと階級の問題系の交差性を検討する。池田啓悟「ハウスキーパーという〈階層〉」では、中本たか子「受刑記」(『中央公論』一九三七年六月)を始めとした戦前の女性共産主義者の回想を取り上げ、ハウスキーパーがプロレタリア社会文化運動の中でひとつの階層として存在していたことを論じる。飯田祐子「プロレタリア文学運動における「金」のジェンダー化」では、「金」のジェンダー配置について論じ、一般的には「生産」の問題に配置される「金」の問題群が、プロレタリア文学においては「再生産」領域と結び合わされて女性ジェンダー化することを論ずる。 これらに加え、21年度の研究会として、第11回(7月24日、報告者:中谷いずみ)、第12回(9月5日、報告者:李珠姫)を予定している。 最終的には、初年度からの研究会におけるすべての報告および議論を総合し、1930年前後の左翼運動におけるジェンダーとセクシュアリティの力学との交差性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響によって、調査の進捗に支障が出たため。2020年度に計画していた関係学会でのパネル報告を延期し、2021年度に行うことにした。
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