(1)日本人の異文化体験の歴史的経緯の一環を明らかにするために、「生きものの記憶―大庭みな子「トーテムの海辺」の軌跡」(『敍説』Ⅲ―18、2020)では、大庭みな子の小説における1960年代の日系企業の海外駐在員の異文化交流の経緯を明らかにした。 (2)タイ・〈仏印〉をめぐる文化表象が、日本語テキストにおいてどのように構築され、流通したかという問題についての考察と分析を継続した。1960年代後半の日本と東南アジア地域との政治的・経済的交流が、日本文学の領域にどのような影響を与えたかという問題を考察するために、「『文化防衛論』の中のアジア―『佐藤榮作日記』と『楠田實日記』の記録から―」(『敍説』Ⅲ―18号、2020)では、佐藤栄作政権の東南アジア歴訪と、三島由紀夫のタイ・ラオス取材の軌跡を重ね合わせ、アジア王室の問題が三島の天皇制に関する議論に与えた影響について明らかにした。 (3)ベトナム戦争下にあったインドシナ半島と、日本との政治的関係性が、国内の言説にどのような影響を与えたかという問題について考察するために、「「文化概念としての天皇」とは何か―三島由紀夫「文化防衛論」と同時代批評」(『福岡教育大学国語科研究論集』第62号、2021)では、三島における天皇論が同時代の国際関係状況に影響を受けつつ構築された過程を明らかにした。 (4)「三島由紀夫とアダプテーション研究会」における企画・運営を行い、第3回研究会のシンポジウムにおける討議をまとめた記録「特集・映画『美しい星』の世界―制作の現場から-(講師・吉田大八)」(「三島由紀夫研究『豊饒の海』の時代」⑳、2020)を作成した。講演と討議の成果をまとめることで、1960年代の三島の小説が現代の映画などの表現活動に与えた影響という課題が明らかになった。
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