研究課題/領域番号 |
18K00330
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山岸 郁子 日本大学, 経済学部, 教授 (90256785)
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研究分担者 |
十重田 裕一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40237053)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 日本近代文学 / 文化資源 / メディア / 文学館 / 指定管理者制度 / 作家研究 |
研究実績の概要 |
本研究は全体的なメディア状況や文学者の活動を資料から把握した上で、諸地域において作家や文学作品といった「文化資源」がどのように発見され、活用されているのかについて実態調査を行い、その成果を文学館をはじめとする研究施設やその利用者の利便性向上のために役立てようという目的のもと継続して行なってきた。 戦後日本では、全国総合開発計画で打ち出された様々な政策分野において中央集権型の計画策定にもとづく経済発展に向けた産業政策が行われてきたが、開発を受容する地域の側には固有の歴史・風土・文化・民俗性があり、画一的な開発政策と地域固有の事情との狭間で、さまざまな問題課題が生じてきたといえる。本研究では高度経済成長期以降の産業政策や国土開発をめぐる状況の変化により地域における「文学」・「文学者」が産業の振興にどのような役割を果たしたのか、またその影響について、文学館の研究員、社会学者、地方財政学者などと研究会を行い、総合的に検討を重ねてきた。さらに文化資源としての「作家」ならびに「作品」が再発見される社会的な背景(主に経済的事情)について調査・分析を行なってきた。また、文学者が建国記念日審議会委員に任命されたことに象徴されるような、戦後の「文学」と「政治」との関係についても明らかにすべく、地方自治体や地方の文学館での調査を行った。主な実績は次の二点にまとめられる。 ①戦後の文芸時評欄の調査を行い、文化人としての振る舞いを期待された有力な作家・評論家の生活について、作品とメディア情報、日記を比較しながら実態をつかむべく調査を行った。 ②〈地域〉の視点から文学館等で顕彰された作家について調査を行い、展示の構成などにみられる文化的意味づけを分析し、また観光資源としてどのように利用されたのか行政資料にも目を配りながら明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナウイルス感染拡大防止といった3年間にわたる行動制限期間と研究期間が重なってしまったため、地方の文学館調査に少しの遅れがでてしまった。都市部と地方との感染対策についてのガイドラインの不統一や、勤務校への出張依頼文書の提出の早期化による理由もあった。 そのような状況下においても研究代表者である山岸郁子は、地方文学館と連携しながら、徳田秋聲文学館での「久米正雄の登場」(2022年10月)、福岡市立総合図書館での「宇野浩二 まなざしの記憶」(2023年1月)、市立小樽文学館での「伊藤整日記と近代文学研究者曽根博善の仕事展」(2023年3月)に携わることができた。 研究分担者の十重田裕一は早稲田大学国際文学館の館長として、企画内容や展示について、継続的に研究してきたことを実現させてきている。さらに「美しい日本と美しくない日本ー川端康成と松本清張の点と線「川端康成学会 川端康成没後50年記念国際シンポジウム」での発表、『川端康成 孤独を駆ける』(岩波新書 2023)において本研究の中心的なテーマである「高度経済成長と文化資源」の問題について、従来の研究とは異なる角度から「川端康成」とはどのような存在であったのか、問い直すことに成功している。 2023年度は行動制限が全国的に解除されたこと、延長が認められたことにより、当初予定していた残りの国内調査を行い、想定していた成果につなげたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者はすでに地方都市(甲府・福岡・小樽・金沢・郡山・大阪・富山)の文学館収蔵資料についてデータベースを整備し、指定管理者制度、公益法人制度改革によって入館者数等の実績を問われることの問題点や、今後淘汰されていく施設を出さない対策について検討してきた。文学館も時代に合ったキュレーションが必要となっている。例えば、説明板・碑といった名所・旧跡や、建造物、石碑といったその地域に関連する文化財は、歴史・文化を知る契機を一般に与えるとともに、街歩きの楽しみを提供する文化資源でもある。本研究成果をベースとした文化資源の活用の仕方を提案し、コンテンツとして活用することに対して地域文学館の理解も得られており、文学研究のみならず観光案内・生涯教育・学校教育など広く利用価値のあるものとすることが実行可能であり社会への波及効果が期待できる。1960年代から70年代にかけての空前絶後の大盛況期に、各種文学全集や文庫の出版とともに文学の大衆化にさらに拍車をかけて、文学の黄金時代が訪れたことを新聞や文芸雑誌を調査することにより証明することができた。同時期の文学館の設立にいたるまでの調査を行うなかで、現在においての文学館の意味を改めて問い直し、継続すべき方法について提案ができると考えている。全国の文学館を牽引した日本近代文学館・神奈川近代文学館について改めて調査を行うことで地方文学館の役割について改めて問い直したい。 本研究の独創性は地域と作家との関係を軸に据えながら「文学」と「社会」・「経済」・「政治」について調査・考察することである。成果を調査・研究機関に還元することによって、他の地域の文学館との比較が可能になり、研究のための特色の提示や文学展の企画のあり方、データベース利用を利用者にどのように示していくのがよいのか提案することができると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス感染拡大防止により、国内出張に制約が出たため計画遂行に遅れが出た。具体的には福岡・大阪・小樽への締めくくりの調査を3回予定していたものの、1回ないし2回しか行えず作業が完了できなかった。2023 年度に調査を集中して行い(国内地方図書館・文学館調査を6回行う)、データベースの完成を目指す。 また成果物について専門知識の提供並びに、外部委託による入力や校正をはじめとする確認作業を行いたい。従来の調査結果から文学のみならず美術・芸術など隣接領域との共通性や関連性、歴史・思想に及ぶ視野の転換点についての考察が可能となり、戦後日本(主に高度成長期)における文化史の新しい座標が明らかになることが期待できる。また文学館の収蔵資料についてデジタル機器を用いた検索を可能とするような包括的なアーカイヴス化を想定しながら入力・校訂作業を進行させることで、総合的な文化事象のデータベース作成のためのモデルケースとなり、それを利用した文化ネットワークの構築も実現可能である。幅広い利用者に正確な情報を提供することで、調査機関への還元のみならず研究推進のみならず、社会的な役割も果たせるものと考えている。
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