今年度も、新型コロナウイルス感染拡大のために国内外の出張が大幅に制限されることとなった。当初は、日本国内の研究教育機関を中心に、また、必要に応じて、アメリカ合衆国メリーランド大学図書館ゴードン・W・プランゲ文庫での調査を実施し、研究を進める計画であった。しかし、引き続き新型コロナウイルス感染拡大のために国内外の移動が制限されたことで、これまでの調査に基づく研究成果をまとめることに研究の方向を大きく転換することとした。集中的に草稿・原稿の整理を行うことで、十重田裕一『横光利一と近代メディア 震災から占領まで』(岩波書店、2021年9月、pp.1-416、第30回やまなし文学賞 研究・評論部門)を出版することができた。関東大震災前後からアメリカ軍による占領期までの約30年間を作家として活動した横光利一と、折しも未曽有の変革期であり拡大期であった近代メディアとの関わりを論じた本学術書は、メリーランド大学図書館ゴードン・W・プランゲ文庫収蔵資料の調査・分析結果や、2019年10月から2020年3月まで客員教授として滞在した、カリフォルニア大学ロサンゼルス校における研究成果など、米国の研究機関における調査・研究に基づく研究成果が組み込まれたものである。これにより、GHQ/SCAPと文芸雑誌・総合雑誌との間にどのような鬩ぎ合いが繰り広げられ、それがどのような結果をもたらしたのか、占領期の日本近代文学とメディア検閲との関連の一端を解明し新たな照明を当てることができた。
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