研究課題/領域番号 |
18K00336
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
小林 一彦 京都産業大学, 文化学部, 教授 (30269568)
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研究分担者 |
彬子女王 京都産業大学, 日本文化研究所, 研究員 (20571889)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 書誌学 / 伝統産業 / 最先端技術 / 複製古文書・古典籍 / 書物文化 / 産学連携 / 京都学 / 次世代への継承 |
研究実績の概要 |
研究代表者(小林一彦、以下「代表者」)と研究分担者(彬子女王殿下、以下「分担者」)の2名で、連携しつつ研究を進めている。 令和2年度の主たる研究実績としては、代表者は引き続き公益財団法人冷泉家時雨亭文庫蔵古典籍(重要文化財)の精巧な影印複製をもとに、古典籍の紹介を主とした歌人小伝を4回、時雨亭文庫の機関誌「しくれてい」に掲載した。また、冷泉家の初代為相へ和歌文書を譲り渡した父の為家や、さらにその父系を祖父俊成まで遡り、歌の家である御子左家三代について、専門家諸氏に論考を請い、緒論を集めた論文集『日本文学研究ジャーナル』16号「特集 御子左家―俊成・定家・為家―」を、早稲田大学教授の兼築信行氏と共同で編集担当した。その際に、代表者自身も「為家の悲しみ」と題して、歌の家の伝統を継承する為家の歌道家宗匠としての立場から、その苦難の有り様をその詠歌をもとに追尋しまとめた論文を執筆掲載した。さらに古典籍の書写に関係し、鎌倉時代の写本複製と伝播の具体相を追求すべく「真観本「寿永百首家集」―私家集研究の大河の中で―」と題し、同研究所の月例研究会において口頭発表を行い、さらにそれをもとに『京都産業大学日本文化研究所紀要』26号に論文化して公刊した。 また分担者は、京都産業大学日本文化研究所25周年記念のシンポジウムにおいて、華道家元池坊の次期家元、池坊専好氏と対談された。コロナ禍の下、日本人と自然との古くからの関わりや、さらに自然環境の変化の中で、どのように人間として豊かに生きていくのか、またそれによって価値観が変わりつつある中で、文化の行く末など、オンライン(ZOOMウェビナー)にて、わかりやすく聴衆に語りかけられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度末から猛威をふるう、新型コロナウイルスによる影響はきわめて大きく、海外におけるワークショップなどの計画は、断念を余儀なくされた。人と人との接触が自粛される中にあって、古典そのものはもとより、複製古典籍の価値をどのように内外に広く周知させるか、抜本的な見直しを迫られることとなった。手に取れる古文書・古典籍、手触りや重量など質感をも伝えられる、より本物に近い高品質な複製古文書・古典籍には、どのような広報発信の方策が望ましいか、考えあぐねたことが主たる要因である。
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今後の研究の推進方策 |
京都が誇る伝統産業を担う職人たちの伝統的な匠の手わざ(手仕事)と、株式会社富士ゼロックス京都が保持推進する最先端の電子複写技術と、伝統と革新が共存する、いかにも京都らしい複製古文書・古典籍の数々が、学術的にきわめて有用な資源であることは多言を要しない。歴史や古典文学などの分野において、文献としての実証的な研究の材料をそのままに提供する素材であることはもちろんだが、博物館・美術館などの学芸員の高度で専門的な知識および技量を修得するための、大学などの高等教育機関における専門家の養成、後継者の育成においても、具体的な活用が期待される。それは精巧な複製古文書・古典籍が、二次元的・平面的な単なる写真としてではなく、手に取れる「モノ」、三次元的・立体的な複製文化財としての価値を有しているからに他ならない。 こうした複製古文書・古典籍を、手に取るという接触手段なしに、その価値を広く周知せしめる方策は、新型コロナウイルスが蔓延している現状ではきわめて難しいと言わざるを得ない。世界に持ち出すことは不可能である以上、次善の策として、たとえば国内向け、次世代の児童・生徒たち向けに、小規模な感染防止をしながらワークショップを行うなどの展開が考えられる。あるいは質感が伝わらないことはやむを得ないが、海外をも対象として動画配信などの手段を用いることも、今後の感染状況などを考慮した場合は、あるいは方策として考慮の対象になるかとも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、主として調査などの研究活動を行うための旅費が使用できずに、残額が生じることとなった。 研究の過程で得た新知見や成果などを、対面ではなく遠隔でも発信できる手段・方法を構築するために有効活用したいと考えている。たとえば動画を制作してWeb上で公開する、あるいはZoomなどのシステムを用いて、オンラインによる成果発信などが想定される。
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