研究課題/領域番号 |
18K00337
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
花崎 育代 立命館大学, 文学部, 教授 (00259186)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大岡昇平 / 「レイテ戦記」 / 「花影」 / 「長い歯を持った男」 / 日本文学 / 草稿研究 / デジタルアーカイブ / 原稿 |
研究実績の概要 |
大岡昇平文学の研究において構想ノート・原稿類を含む自筆資料までを視野に入れたものは、当該研究代表の花崎育代による科研費課題「大岡昇平文学の基礎的および総合的研究―構想ノート・草稿類を含む―」(課題番号:21520217、2009~2012年度)、「大岡昇平文学の基礎的および総合的研究―創作ノート・原稿類を含む―」(課題番号:25370246、2013~2017年度)以外は、ほぼ皆無であった。本研究はこの現状に鑑み企図したものである。2018年度から5年間の計画では上記花崎の研究に連なるものとして、大岡昇平の代表作『俘虜記』『武蔵野夫人』『野火』『酸素』『ハムレット日記』『花影』草稿類の補遺とともに、これらに続く時期の原稿を中心に調査研究している。
2018年度は、主に神奈川近代文学館(神奈川県)が所蔵する大岡昇平「レイテ戦記」の構想ノートや原稿類を調査した。同館における該関係資料は数量が多いが、このうち『レイテ戦記』原稿をデジタル一眼レフカメラにより撮影、思考の経緯を具体的に確認し得たことは大きな成果であった。大岡著作権継承者は現在原稿類総体の公刊を認めていないが、撮影の許可は下りているため可能となった研究である。作品発表後半世紀を過ぎ紙類の劣化が進む状況において、日本文学の貴重な資料を後世に伝えるという意味で喫緊かつ重要な仕事を行ったといえる。また「花影」原稿全体から作品生成を論じた研究を『国語と国文学』に掲載した。 なお大岡昇平「長い歯を持った男」(1960・11)原稿全文が市場に出たことを受け科研費にて購入し立命館大学(衣笠)所蔵とした。現在調査研究中である。(撮影出張を3月にし19年度扱いとすることで購入費に充当した。)日本文学の資産を散逸させず公的機関に所蔵し開かれた研究を進展させることを最優先した決断である。 他に撮影画像処理に必要なノートパソコンを購入した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全5年間の研究計画において、大岡昇平の戦後の代表作品を軸にした研究を、神奈川近代文学館が所蔵している手稿類を含めて研究している。2018年度は、大岡昇平後期の代表作である『レイテ戦記』関係資料を調査したうえで、「レイテ戦記」原稿のデジタル一眼レフカメラによる撮影を、著作権継承者である大岡家からの許可を得て行った。現在これを受けた詳細な調査研究を継続中である。 また「研究実績の概要」欄に記したように、市場に出た大岡原稿「長い歯を持った男」(全文、初出1960・11)を急遽購入した。当初の予定外であったが、研究の公共性に鑑み、科研費での購入と花崎所属機関所蔵とすることで開かれた研究を進める土台とした。該原稿についても現在、調査研究を続行中である。 なお大岡原稿のうち「花影」について『国語と国文学』第95巻第4号に研究を発表した。 以上により研究は、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画通り、大岡昇平文学研究のうち、戦後作品について、資料劣化が懸念されている原稿、構想ノート等手稿類の調査と考究を行ってきている。著作権継承者により、原稿類全体の影印出版、全文翻刻はかなわないが、撮影による細部に至るまでの調査が可能となったため、この方法による研究を行ってきている。作品/テクストを著作者まで遡って研究する場合にはプライバシーや著作権継承者の意向の問題は、当然発生する尊重されるべきものであり、本件における上述の、出版は行わないが調査撮影と考究は進めるという計画とその遂行は、現在考えうる最良の対応であると考えられる。 よって、これまで行ってきた原稿類の調査を行い考察を進める。具体的には2年目の2019年度から4年目の2021年度までは1年目の2018年度に引き続き、『レイテ戦記』『愛について』「遥かなる団地」およびそれらの周辺作品の構想ノートや原稿類を撮影(撮影できないものについては筆者)し、調査を進め、考究していく。 上記文学館の閲覧事情や当該作家の文字判別が極めて困難等の理由で計画遂行に遅滞が予想される場合には、活字資料のさらなる読解、戦前―戦中―戦後の同時代状況の考察に努める。 上記のような推進方策を今後も進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当該研究の大きな柱である大岡昇平自筆原稿が市場に出たことによりこれを急遽購入したことによる支出計画調整によるものである。 前記もしたように「長い歯を持った男」(初出1960・11)原稿は唯一無二のものであり、研究には重要な資料である。公的な購入と公的機関による保存がのぞましいため、購入を決断した。この購入によって、神奈川近代文学館出張、撮影にかかわる諸費用捻出が困難になる恐れがあった。そのため、撮影出張を3月とした。このことで、該出張の会計は次年度となり年度内赤字になることを防ぐことが可能であったとともに、年度内調査として研究の執行は行い得た。 2019年度は上記2018年度内出張、撮影の諸経費が計上加算される。これを含めた上で、2019年度は当初計画通り、資料調査、資料購入、手稿等撮影、これらに伴う出張、等に使用する計画である。
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