研究課題/領域番号 |
18K00338
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
岡田 三津子 大阪工業大学, 知的財産学部, 教授 (50201984)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 早歌 / 拾菓抄 / 岩井直恒 / 大西家 / 坂阿 / 吉田東伍 / 吉田文庫 / 平家物語 |
研究実績の概要 |
平成30年度の成果は、新出の室町期譜本の資料的位置づけを行ったこと、および近代における早歌研究について総合的な整理を行ったこと、の三点である。 まず、新出の室町期早歌譜本『拾菓抄』について、資料紹介を行った。該本は大阪在住の能楽師大西家が所蔵している。関屋俊彦関西大学名誉教授が、大西家資料調査の過程で『拾菓抄』を発見した。関屋から連絡を受けた筆者は、原本調査の機会を得て、該本が室町期の早歌譜本であることを確認した。所蔵者から許可を得て写真撮影を行い、さらに詳細に調査した。その結果、該本が京観世五軒家のうち岩井家の旧蔵であること、岩井家から大西家に移管されたものであることを確認した。さらに、金春家所蔵の『宴曲集』巻第一と同筆であること、その書写者が早歌中興の祖坂阿の可能性が極めて高いことを指摘した(「資料紹介:大西家蔵宴曲『拾菓抄』」『大阪工業大学研究紀要』63巻1号、2019年9月)。従来、坂阿については、節付本の存在だけが知られてきた。今回の成果によって、坂阿が自ら早歌本文を記したという新たな事蹟を付け加えることができた。さらに、該本の本文によって従来の早歌伝本論を見直す契機ともなり得る。 第二に、新潟吉田文庫の調査によって、吉田東伍の早歌(宴曲)研究を意義づけた。従来、不十分であった近代における宴曲研究について総合的な整理を行った(「吉田東伍の宴曲本文校訂」『大阪工業大学研究紀要』63巻2号、2019年9月)。 第三に、早歌の詞章が軍記物語に与えた文学史的な影響について考察した。具体的には、『宴曲抄』所収「熊野参詣」が『平家物語』本文に与えた影響について、書承・口承の側面から検討を加えた(関西軍記物語研究会第94回例会での口頭発表)。他の曲と『平家物語』との関連も含めて、今後の大きな課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第一の理由は、室町期早歌伝本が新たに発見され、その本文紹介および位置づけ、今後の研究方針を定めることに時間を割いたことである。個人蔵という制約もあり、限られた時間で調査し、早歌伝本としての価値を確定するために尽力した。 第二の理由は、かつての研究(中世道行文形成過程の総合的研究)で、積み残したままであった近代早歌研究について整理するために、時間を費やしたことである。具体的には、新潟吉田文庫における二回の調査を経て、その成果を報告書としてまとめた。 第三の理由は、『外物』輪読会を立ち上げられなかったことである。研究協力者に協力依頼をし、協力の許可は得た。しかし、日程の調整が思うようにいかず、結局、一度も輪読会(研究会)を開くことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度(平成30年度)の成果を踏まえて、以下の観点から研究を進める。 第一に、大西家本『拾菓抄』本文を基点として室町期早歌譜本の伝本分類について新たな視点から検討を加える。従来、早歌本文については、室町期譜本と続群書類従系という二分類が行われてきた。大西家本に加えて、改めて詳細な異同を取ることで、伝本分類の新たな基準が見えてくるはずである。 第二に、早歌詞章が平家物語本文に与えた影響について、総合的に検討を加える。「熊野参詣」が『平家物語』に与えた影響について、再度、詳細に検討する。さらに最も遅い時期に成立したと考えられる『源平盛衰記』に的を絞って影響関係がたどれないか検証する。 第三に、『外物』十二曲注釈のための輪読会を本格的に立ち上げる。夏期休業期間を利用して集まることが第一の目的である。その場で、研究代表者が以下の発表を行う。第一に、『外物』に関する従来の研究を整理し、『外物』注釈の意義を述べる。第二に、「領巾振恋」注釈案を示し、研究協力者から意見を募る。研究協力者がそれぞれの専門分野を生かして、注釈の不備を補えるような体制を整える。第三に、他の十一曲について注釈担当者を決める。 最後に、研究成果の公開方法について意見交換し、最終目標を定める。
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次年度使用額が生じた理由 |
第一に、遠隔地の研究協力者の参加を前提とする研究会(輪読会)開催のための旅費を計上していたが、輪読会を開催しなかった。その結果、それが未使用となった。 第二に、撮影した資料の紙焼き写真作成を予定していたが、年度をまたいだ会計となるため、次年度に繰り越したため、その分が未使用となった。 2019年度は、この未使用分を輪読会開催のための旅費、および紙焼き写真作成費用に充当する。さらに、論文執筆に必要な資料作成のための費用、文献資料調査のための旅費(研究代表者および研究協力者)に充当する。
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