研究実績の概要 |
本年度、研究を二つの方向で進行させた。①あまり注目されてこなかった『業識図』の検討と、②大燈派の仮名法語群の検討。 ①『業識図』は本来この研究では対象外にしていた物語系の仮名法語であるが、内容を見ると禅のみならず、大燈派の優位を主張しているように思われると判明し、本研究の趣旨に該当する。調査は駒沢大学図書館蔵と九州大学附属図書館を中心に行った。興味深い事に、九州大学図書館蔵の版本では、思想的な主張に当たる後半の部分が省かれていた。本の状態から判断すれば、それは部分的な損失ではなく、最初からそのまま出版されたと思われる。難解である後半を切り捨てた理由、また同じような版本の有無が課題になった。 ②大燈派の思想的な特徴は、悟りへ導く方法として看話禅しか認めない事にある。その特徴を追って複数の仮名法語を検討し、主な結果を英文オンラインジャーナルの論文に纏めた。("The koan in Japanese Society at the Beginning of the Early Modern Period: Kana hogo and kanna-zen", Studies in Japanese Literature and Culture, p. 67-84)この論文において、「看話禅」に対する立場を規準にしたことで、仮名法語の思想的な分類が一層わかりやすくなり、本研究の目的の一つであるデータベースの作成に生かせると考える。
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