研究課題/領域番号 |
18K00347
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
星名 宏修 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (00284943)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 植民地 / ハンセン病 / 台湾 / 楽生院 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本植民地期の台湾で創作されたハンセン病患者による文学創作を考察するものである。先行研究のほとんど存在しないテーマであり、研究の遂行にあたっては、基礎的な資料の収集が非常に重要である。本年度はその点に力を注いだ。最も重要な資料である雑誌『万寿果』は1934年に総督府のハンセン病療養施設「楽生院」の職員によって刊行された。同誌には日本人・台湾人患者の文学創作が数多く収録されているが、国立台湾図書館(前身は台湾総督府図書館)にも欠号が多く、1939年6月号までしか所蔵していない。しかし療養所相互の機関誌交流があったためか、国立療養所長島愛生園(岡山県瀬戸内市)には1944年2月号まで保管されていることが本研究の申請の段階で判明していた。 本年度の3月に長島愛生園において『万寿果』をはじめとする資料収集を行った。まだ欠号は残るものの、今日まだ残っている『万寿果』はほぼ入手できた。雑誌の分析は次年度以降の作業になるが、本研究の遂行にあたって最重要の資料収集を行うことができた。 これ以外には9月に国立台湾大学台湾文学研究所が開催した国際学術シンポジウム「第三屆文化流動與知識伝播-台湾文学與亜太人文的在地、跨界與混雑」で「閲読殖民地台湾的「癩文学」-以雑誌《萬壽果》為中心」という発表を行った。台湾文学研究におけるハンセン病文学の欠落を指摘した上で、『万寿果』に掲載された台湾人患者の文学作品を、日本語の短歌や詩のほかに、漢詩や台湾語による歌い物などから分析した。論文は修正の上、同研究所の機関誌に投稿し、審査を待っている。 また日本台湾学会の機関誌『日本台湾学会報』に投稿した「植民地台湾の「癩文学」を読む-宮崎勝雄のテクストを中心に」の査読が通過した。楽生院に入所し、短歌や小説などさまざまなジャンルで創作を行った宮崎勝雄に焦点をあて、そのテクストを論じたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の遂行にあたって最も重要な資料である『万寿果』を岡山県のハンセン病療養施設の長島愛生園で収集できたことが何より大きい。「研究実績の概要」でも述べたように、日本植民地期のハンセン病療養施設の楽生院で刊行された雑誌『万寿果』は、台湾では1930年代のものしか残っておらず、本研究を行うにあたってはより多くの刊号を収集することが決定的に重要であった。国立療養所長島愛生園の資料室において台湾では見ることのできなかった『万寿果』雑誌を、欠号はあるものの1944年2月号まで手に入れることができたのは、今後の研究遂行に大きな足がかりとなった。 また2018年9月に国立台湾大学台湾文学研究所が開催した国際学術シンポジウムにおいて「閲読殖民地台湾的「癩文学」-以雑誌《萬壽果》為中心」と題する発表を行い、多くの研究者と議論ができた。 さらに日本台湾学会の機関誌『日本台湾学会報』に「植民地台湾の「癩文学」を読む-宮崎勝雄のテクストを中心に」を投稿した。査読は通過し、2019年夏にも刊行されるはずである。
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今後の研究の推進方策 |
収集した『万寿果』の分析をはじめ、これから読むべき資料は数多く残されている。とりわけ1940年代の『万寿果』はこれまでほとんど見ることができなかったため、大東亜戦争という戦時期ならではの問題に留意しながら研究を進めていく。 また本年度の研究を通して、戦前にはハンセン病患者の文学(特に短歌)が、「療養文芸」というジャンルで論じられていることに気がついた。結核患者や精神を病んだものたちと同様に、療養所に収容され、世間から隔離されたハンセン病患者の文学作品をより広い視野で検討する可能性と必要性に気づかされた。今後は「療養文芸」関連の資料を意識的に集めつつ、新たな枠組みのなかで患者の創作を分析したい。 また楽生院に入所していた内地人患者のおよそ半分は沖縄出身者であることが判明している。戦後、植民地支配が終わり、内地人が日本へ送還されるなかで、彼らは沖縄愛楽園に再度収容されることになった。そうした患者の回想録が、愛楽園で刊行された回想録などから断片的に見ることができる。今日、楽生院での収容体験を語る戦後の資料はほとんど存在しない。2019年度は沖縄愛楽園での調査によって、より網羅的に楽生院体験者の記録を発掘することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は沖縄愛楽園への出張を考えていたが、日程的にスケジュールが組めず長島愛生園の出張のみとなった。またハンセン病関連の図書についても購入額が少なかったかったため。 次年度は沖縄愛楽園と台湾への出張を計画に組み込むとともに、沖縄・台湾での資料収集費に充てる。
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